悪場所で採取してきた、ベルヴィル・ノワール。

 ぎりぎり自炊ですませるという今回の長旅で、拠点としたアパルトマンは、パリのベルヴィルです。前回は新興オシャレ地区のマレで、ピカソ美術館の側、どこへ行くにも便利でしたが、今回はガラッと変わりました。あの名作映画『赤い風船』の舞台となった場所、アニメ『ベルヴィル・ランデブー』の三つ子のオバアサンが生まれ育ったヴィル(街)、あるいは、シャンソンの不世出の名花、エディット・ピアフの生地近く、と説明できま

死んだ少女の残したものは…。

 真偽不明のまま、あえかな都市伝説の〈証拠品〉として、1世紀に渡ってパリで存在し続けてきたデスマスクが《名もなきセーヌの少女》です。ノートルダム寺院の側にあった死体安置所で採られたと言うことなのですが、彼女が誰か? 作者が誰か? が定かでないのです。それ以前に、はたして、本当にデスマスクなのか? 目を閉じ、微笑したライフマスクではないか? といまだに結論は出ていません。ミステリアスな少女。  この

神戸のアトリエ

二階の部屋に置かれた わずか五枚の絵のせいで 部屋の床はたわみ 底が抜けてしまいそうだった 試しに一枚を持ってみると軽いのだが 眺めていると いやに重ったるい 五枚のキャンバスに 閉じ込められているのは 同じ男の顔だった 南米、パリ、ローマ スペインのラマンチャ 諸国を旅して 探して 見つけたのも 同じ男の顔だった その後も男は自画像を描き続け パレットの裏にひとこと書き残して 酒に酔った車の

ついでにデュシャンの小話ついてでも…。

 コレクター特集のSPと連動して本欄登場はデュシャンです。コメント忘れの書籍がSPに一冊あり、意図的にではなくデュシャン的偶然なのですが、この偶然=チャンスをどこでフォローしようかと考え、あ、本欄があったと気づいた次第。  忘れていたのは、中央上部に見えている緑色本で、表紙にドットで『THE BRIDE STRIPPED BARE BY HER BACHELORS EVEN』、とタイトルが穿たれた

世界で読まれるル・クレジオの創作。

 作家ル・クレジオの来日に合わせて開催された講演会とサイン会。どちらも定員は早々と埋まり、サイン会では氏の到着を待って長い列ができた。定刻をわずかだけ過ぎて現れたル・クレジオその人は、背筋のすらりと伸びた、見るからに品の良さそうな男前。とはいえぐっと相手を見つめる眼光はやはり鋭くて、大作家の風格が隠しようもなくにじみ出る。  1963年に『調書』でデビューし、大きな文学賞を得たル・クレジオ。23歳

1万年前から変わらぬ極北の暮らしを追って。

「境界線を引き直す作業をしている」  世界中を旅して写真を撮ることについて、写真家の津田直さんは、前にそう言っていた。国境や言葉が人や場所を分けてしまうが、それらの名がつく前にはどんな風景が広がり、どんな人々のつながりがあったのだろうか。津田さんは、世界を歩き回り現地の人たちの話を聞き、人と自然の営みに目を向ける。  POSTで開催されている個展『SAMELAND』のテーマは、極北のランドスケープ

満員の注視のなか、知の巨人登壇。|ノーム・チョムスキー

 なかなか春の足音の聞こえてこなかった今年。突き刺すような寒さの残る3月のある日、上智大学内の階段状の講義室だけは、春を通り越した夏のような熱気に包まれていた。言語とは、環境によって習得するものではなく人間にもともと備わる特性だとする「生成文法理論」を20代より展開し、言語学とその周縁分野にまで大きな変革をもたらした“現代言語学の父”チョムスキーによる連続講義が行われたのだ。言語学・政治学・哲学な

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