星野道夫の世界観を語る|養老孟司

今もいそいそと虫捕りに出かけ、子供たちを自然のなかへと連れ出す企みを実践する解剖学者・養老孟司。自然への旅を続けた星野道夫の生き方を「人には伝えられないことがある」とわかっていた人のものだったと言う。そしてその表現は、文学が本来持っていた、しかし現在は失われてしまった創造性に満ちたものだったと。  昔はね、子供が病気で死ぬのは珍しくなかった。子供が死ぬと親は大変なショックを受ける。あの子の人生はな

自分の存在を懸けた「本物の体験」とは何か。|服部文祥

 学生時代に山登りにのめり込んでしまった者が企業に就職して生きていくのは難しい。自分の命さえもてあそぶほどの自由を登山で知ってしまうと、時に滅私して組織のコマになり、人生を切り売りして、サラリーを稼ぐ生活がバカらしくなってしまうからだ。一方で、子供の頃から所属してきた日本の社会を切り捨てて、仙人のように生きていく覚悟もない。  20代の最初の頃、山登りに身を費やした若者が、自由を捨てずに生きていく

一枚の写真に込める辺境の“友”への想い。|ヨシダナギ

 写真家と呼ばれるようになっても、いわゆる風景写真というものに一切興味を持てずにいた。が、星野道夫の写真を見て、変わった。それは、伝統的なクジラ漁を行う極北の海の民が暮らす村の写真だった。浜辺には巨大なクジラの骨がオブジェのように突き立っている。それは命をくれた生物に対する感謝を込めた墓標。その写真にはコンビニで投げ売られる絶景写真が持たない何かがあった。それは「想い」なのだと思うに至った。その地

自分の中に流れる、東京時間、クジラ時間。|森本千絵

「東京での仕事は忙しかったけれど、本当に行って良かった。何が良かったかって? それはね、私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと……」 『旅をする木』で星野さんと一緒に旅した女性の言葉。じつは私にも同じような記憶があります。  Mr.Childrenのアルバムジャケットを手がけていた時、ある曲を聴いてクジラの

動物の感じ方は自由でいい。自分なりの動物像を持つこと。|三沢厚彦

 熊は森で一番強い動物でカッコいい、かつ愛らしい。物語や寓話にもよく登場するが、本当の熊の気持ちは誰にもわからないだろう。  僕は動物モチーフの彫刻を作品としているが、制作の際は実際の動物はあえて見ないようにしている。“動物”をつくっているのではなく、あるリアリティを持った“彫刻”をつくっているから。  図鑑のデータや写真などの資料を基に、サイズだけは実物に忠実に、その後は自分の中での熊像をつくり

外の世界へ向けられたポジティブなまなざし。|渡辺貴生

 ザ・ノース・フェイスを担当してしばらく経った頃、「面白い写真家がいる」と知人の編集者に紹介されたのが星野さんだった。  彼は僕より6歳年上だったけれど、人懐っこく、超がつくほどおっちょこちょいな人だった。1ヵ月にも及ぶ北極圏での単独撮影でテントを風に飛ばされて、揚げ句、川に流されちゃったとか、真冬にアラスカの自宅でロックアウトされて、危うく凍死しそうになったとか。数々の失敗談を愉快そうに話してく

雑誌・広告などで活躍。20歳の時、第18回写真ひとつぼ展グランプリを最年少で受賞。写真集に『ビルに泳ぐ』など。

 19歳の星野さんが何度もめくっていたアラスカの写真集。その中に特に好きな写真がありました。シシュマレフという小さな村の空撮写真。ベーリング海と北極海がぶつかる海域にある島でした。その村を訪ねたいと思った星野さん。住所も何もわからないまま、「シシュマレフ村 村長へ」とだけ宛名を書いた手紙を投函します。 「何でもするからどこかの家においてほしい」と。その半年後、「歓迎します」との返事が届きます。これ

一つの命から別の命へ。生命のつながりを捉える目線。|田邊優貴子

 星野道夫さんを知ったのは中学の時。書店の写真集コーナーで見て、「うわあーっ!」と思った衝撃は忘れません。「この人は“動物そのもの”を撮ろうとしているんじゃない」。子供ながらにそう思いました。彼の捉える動物の姿は、決して決定的瞬間!というものではなく、ただそこに生きているさま。ムースやカリブーが広い場所にぽつんといたり、ほかの動物が写り込んでいたり。あえて対象の動物以外のものを一緒に写しているよう

写真の内から外へつながる「時間」と「空間」。|森泉岳土

 父の書棚で星野道夫さんの写真集を見つけた3年後、高校2年生の夏休みに、父の友人を訪ねてアラスカへ行きました。初の海外、初めての一人旅。16日間でデナリ国立公園、ポーテージ・バレー、バルディーズ、コロンビア・グレイシャーなど夏のアラスカを回りました。初めてなのに、不思議と未知の場所に行くような気がしなかったのは、星野さんの写真を見ていたからだと思います。  印象に残っているのは、雪原に列をなすカリ

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