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これから定番になっていく新しい名著。何度も読みたいビジネス書指南 〜後編〜

名著『ビジョナリー・カンパニー』シリーズがついに1,000万部を記録して、ビジネス書の読書人口も増加中。そこで、人気起業コンサルタント、110万部ベストセラーの編集者、元Amazonバイヤーのカリスマ書評家が語ります。今ビジネス書を百読する理由とは?

世界的な名経営者が繰り返し読む百読本。何度も読みたいビジネス書指南 〜前編〜」を読む

text: Masae Wako

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これから読まれるのは
「問い」を後押しする本。

藤井

ロングセラーが多いのもビジネス書の特徴ですね。長く読まれる本の圧倒的な共通点は、原理原則と真理が書いてあること。

50年以上読まれている松下幸之助の『道をひらく』も、「人の立場に立ってものを考える」とか、書かれているのはホントに当たり前のことなんだけど、果たしてできてるかと自問すると反省せざるを得ない。

人間関係のように多くの人が抱えている問題にも広く答えているから、国も時代も年齢も問わず読み継がれていく。「共感し」「安心し」「そうだよな」って自分のこととして考えやすいんです。

土井

経営論の名著、ゲイリー・ハメルの『経営の未来』の冒頭には、成功している人というのは、かつて成功した人たちが創り上げてきた思想の上に、自分の経営を重ねて結果を出し評価されているーということが書いてある。真実だと思う。だからこそ古典が繰り返し読まれるんでしょうね。

藤井

一方で、今は先行きが不透明な時代。AIなど新しい技術も生まれ、今までの価値観が崩れている。古典に書かれていることをそのまま適用していいのかと、考えざるを得ないのも確かです。

もしかしたら『HARD THINGS』のような、予測不可能な事態への覚悟を養う本が、より切実に読まれるかもしれないですね。

中川

確かに。景気が良かった時は、生産性や効率性を上げるためのビジネス書が求められたけれど、どれだけ人間の生産性を上げてもAIに負けちゃうよね、という感覚も出てきている。

そんな中で最近大事だと言われ始めているのが、「問い」を立てることだと思うんです。手軽にわかりやすく何かが身につく本よりも、もっとちゃんと考えなくちゃダメだよと、本質を問う重厚な本が売れている気がします。

藤井

自分が依って立つところを考えさせてくれる本が、これからは読まれるだろうし、よく生きるってそういうことだと僕も思う。

中川

例えば、今の日本はこれでいいのかな、と身近な視点から問いを立てる安宅和人さんの『シン・ニホン』。自分で調べ、自分なりの答えを出し、おかしいと思ったら変えてもいいんだと、そういうマインドを後押しする本が読まれることを期待しています。

日本で読み継がれてきた
名著の古典とは。

「心にとどめやすい真理がある。」藤井孝一

偉大な経営者の気づきや哲学のような、わりと抽象的なことが書かれている本が、僕はすんなり肚落ちする気がします。トップ経営者の話を日本の新入社員が読む場合でも、原理原則と真理が書いてあれば学びを得られるし何度も読める。

『道をひらく』にある「他人の道に心をうばわれ、思案にくれて立ちすくんでいても、道はすこしもひらけない。道をひらくためには、まず歩まねばならぬ」とか、心にとどめておきやすく反省もしやすい。血肉になりやすいわけです。ドラッカー本などは、改訂を繰り返し、表現を今の人に合うよう変えながら残り続けている。それも名著の条件。

「語り継がれて名著は名著に。」中川ヒロミ

時代が変わっても、その時々で本を支持する人たちが現れて、彼らがその良さを語り継いでいく。名著はそういう連鎖を生み出すものだと思います。

『マネジメント』や『ビジョナリー・カンパニー』などの名著は、普遍的で重要な内容だからこそですが、最近読んだ起業家や経営者が絶賛し、さらにその起業家のファンが著者のことは知らなくても、「マネージャーってこういう仕事だよね」「今も昔も一番大事なのはこれだ」と共感や理解を広げてくれるので、長く読み継がれています。だから、20年、30年経って環境や状況が変わっても、著者が亡くなっても本は生き続けるのです。

「普遍的で実用的、それが名著。」土井英司

普遍的で、かつ実践に役立つのが名著ですね。『トヨタ生産方式』には、大野耐一さんがビシッと体系化した「7つのムダ」が書かれているのですが、これがそのままビジネスの原理原則に当てはまる。我々はこの本を基に自分の会社の無駄を考えればいいんです。読めば「こういうことか!」と膝を打ちたくなり、今も絶対役に立つ。

『実学』は、稲盛和夫さんが現場で経理の方と議論して確立した、経営者のための会計論。数字を見て、現場の状況や人の気持ちまで理解できる経営者になりたい、そう思う人には最適です。これらを読まずに経営は語れません。

定式化とアップデートも
新たなキーワード。

土井

僕はお2人とは逆に、不透明で権威が意味を持たない時代だからこそ、実用的な本が求められると思う。その一つが知恵の定式化。今、単なるノウハウや断片的な知識はネットで拾えるので、みんなの願いは、「お金を払う以上はそれに太鼓判を捺してほしい」「定式化して普遍化してください」ってことだと思うんですよね。

藤井

なるほど、それも一理ある。

土井

同時に、自分をアップデートしたいというのも、変化の激しい時代のトレンドの一つですね。『FACTFULNESS』はそういう気分を突いていて、要は地理の話なんです。我々が学校で習った科目の中で、唯一アップデートが必要なのが実は地理。

僕らの世代だと、カカオの生産量世界一はいまだにガーナだと思ってる人がいるわけですが……というようなことを言うと、少なからず「えっ?」って返ってきて。「違うんですよ、今はですね」と『FACTFULNESS』の話をするとみんな読みたくなっちゃう。それぐらい地理のアップデートって忘れられている。

藤井

だから売れるのかもしれないですね。日本のビジネス書市場が活気を呈しているのは、やっぱりアメリカの影響が強いと思うんですが、今、アメリカだとどういうビジネス書が売れているんでしょうか。

土井

最近NYでハッとしたのは、書店の〈バーンズ・アンド・ノーブル〉に「ウィメン・イン・ビジネス」というカテゴリーができていたこと。マネジメント&リーダーシップとかエコノミックスと並んで、女性起業家の本が注目されてるんです。

中川

それは興味深いですね。これから日本も続いてほしいです。

藤井

あとは、ビジネス書のオーディオブックを聴く人が圧倒的に多い。アメリカは車社会で通勤時間も長いからだと思うけれど、ずーっとオーディオブックやポッドキャストを聴いてる。

土井

彼ら、特にIT経営者がそうやって常に勉強し続けているのは、簡単に競走優位を覆されちゃう下剋上の業界だからだと思うんです。

ビル・ゲイツは現役時代から今まで一日も欠かさず本を読んでいるそうですが、たぶん、「自分が失敗するとしたらどういう時なんだろう」って考え続けているんでしょう。優れた経営者はいつも自分自身を疑い、不安と戦っている。

うまくいっている時ほど自分を過信せず、ちゃんと人の意見に耳を傾ける。だからこそ、指針となる書を何度でも読まずにはいられないし、そういう本には時代に流されない普遍的な成功原理が詰まっている。僕らが読んでも必ず役に立つんです。

これから定番になっていく
新しい名著を探る。

藤井孝一が選ぶ2冊

前代未聞ともいえる時代の転換点にあっては、将来ばかりを想像するのではなく、自分がどうしたいかを考えることがすごく大事。そういう意味で、ますます原理原則が強く求められると思います。

『HARD THINGS』は、どんな状況も起こり得る覚悟を持たせてくれるし、『GIVE & TAKE』は読めば読むほど自分の中の多面性というか、いろいろな側面があることに気づかされる。どちらも不透明な時代を生きる支えになる本だと思います。

中川ヒロミが選ぶ2冊

新しい名著……私の場合それは、どんな本を担当したいかという話でもあるんですよね。今、ビジネス書で気になるキーワードは「教育」や「学び」。

学びと言っても、正解が明かされる本ではなく、自分の頭で考えることに重点が置かれる本がトレンドになると思います。『シン・ニホン』も『FACTFULNESS』も、読みながら自分なりの問いを立て、答えを見つけることを後押ししてくれる。答えより問いのある本を、私も読みたい。

土井英司が選ぶ2冊

ノウハウを定式化した本が読まれると、僕は思っています。『進化思考』には、物事の進化を促すための「変異」を意図的に起こすメソッド。

例えば「標準装備を減らすこと」が書かれている。既にファンも多く、「『進化思考』を学ぶコミュニティ」もできているんですよ。『1分で話せ』では、「“結論・根拠・たとえば”で話すと伝わる」ということが書かれている。不変の技術を定式化したのがすごい。めちゃくちゃ役立ちます。

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