語る人:代表・波々伯部広章
マルホ酒店 九条本店(九条/大阪)
海外ブルワリーの最先端を知ることができる古き酒屋
一見すると角打ちを配した昔ながらの酒屋さん。だが、冷蔵庫や店奥にあるセラーを覗けば、国内外のブルワリーの缶やボトルが所狭しと。
明治時代末に創業の〈マルホ酒店〉がビール好きに一目置かれる存在となったのは、3代目の波々伯部 広章さんの功績にほかならない。彼の人生を変えたのが、2013年、大学4年の時に出会った「馨和 KAGUA Blanc」。「ユズのフレッシュさと酵母由来の華やかな香りに“ビールのなかに、もう一つの世界がある!”と衝撃を受けました」。
卒業後は家業を継ぎ、クラフトビールを事業の一つに据えた。「独自性がなければ、売り手として価値はない」という意図もあってのこと。国内大手メーカーの酒で埋まっていた冷蔵庫は、いつしかクラフトビールで満杯に。現在は約400種を揃え、うち7割が海外産。各国のブルワリーを一人訪ね、自社輸入を手がけるまでになったのには確固たる考えがあった。
「アンチ・大衆消費財としての位置づけであるクラフトビール。だけど伝え手も飲み手も、いつしか目新しい商品ばかりを追い求めるようになり、“僕は単にモノを動かしているだけ”だと興ざめして。大好きなブルワリーとともに仕事をしたいし、彼らのスタンスを長い目で見て伝えたいと思うように」。今ではスペインや香港などからの直輸入は8社に及ぶ。そこから各国のクラフトビールシーンを垣間見ることができるのが面白い。
その一つが、常識にとらわれず実験的なことにチャレンジする造り手たちの存在。例えば、欧州以外への出荷は日本が初というアイルランドの新顔〈ウィプラッシュ〉。「この造り手のセッションIPAは、3.8%という低アルコールながら、ホップの香りは強い。だけど突出しすぎない苦味の出し方が見事なんです」。
スペインの新進気鋭〈ガラージ〉なら「音楽やアートと融合させたイベントを開くなど、自分たちの“好き”を組み合わせるノリが好き。クラフトビールの新たな文化的側面を教えてくれました」とも。最近は国を超えたコラボレーションも顕著だそうで、「文化やコミュニティの最先端を伝えていきたい」という。
波々伯部さんも彼らに負けじと走り続ける。2020年10月には大阪・ミナミに、ボトルショップ&バーを開店。フレンチ出身のシェフによる、ヨーロッパ各地の料理を、12タップの樽生とともに堪能でき「欧州を旅した気分で飲める」と、地元客からのウケは上々。「間口は広く、奥行きは深く。多くの人がクラフトビールを手に取れる環境を、これからも僕なりに整えていきたいですね」