ビブリオマンシーとは
名前は耳慣れないが、占いとしては実にシンプル。パッと開いたページの中の言葉をもとに、運命を読み解いていくものだ。
「古代ギリシャでもすでに、ホメロスの叙事詩の一節を引いて運勢を見るといったことが行われていました。いわば『本が神託を授ける』のです。ふと出合った言葉にこそ重要な意味が隠されていると捉え、そこに自分の現状や、これから為すべきことを読んでいくのがビブリオマンシーです」(千田歌秋さん)
占い方
どのように進めるものなのか、千田さんに流れを教えてもらう。
ラランド・ニシダが挑戦!
大の読書家で知られるニシダさん(ラランド)が、実際に体験してみる。ちなみにニシダさん自身は、日頃占いは全く気にせず生きているタイプだそうで……。
ニシダ
普段はどういう本で占っているんですか?
千田
私がよく使うのは、『イメージ・シンボル事典』(大修館書店)という、古今東西のさまざまなシンボルを解説する本です。まずは、これで占ってみましょうか。聞いてみたいことはありますか?
ニシダ
そうですね……。ざっくりと、2024年下半期の仕事運を見てもらうことはできますか?
千田
できますが、もう少し解像度を上げていきましょう。たとえば「2024年下半期の仕事運を上げていくために、どんなオファーにのっていけばいいか」という問いはどうでしょうか。
ニシダ
はい!お願いします!
質問1:2024年下半期の仕事運
デモンストレーションも兼ねて、まずは千田さんが本を扱う。ニシダさんが「ストップ」と声をかけたとき、ペン先が止まったのは……?
千田
事典でやる場合は、選ばれた言葉自体の他に、その言葉が含まれる項目も見ていきます。さて、今ニシダさんが引き出したのは「指輪」という項目の中の「使われる」という語です。
ニシダ
おお……!どう解釈すればいいのかまったく分かりませんが(苦笑)。
千田
解釈の方法は、基本的に自由です。意味をストレートに取ってもいいし、字面の印象や音の響きから考えてもいい。
では、「指輪」。これは円を描いているもので、約束を表す存在でもある。そこから、契約や取り決めごとがすでに定まっている、つまり「円が閉じている」案件が連想されます。そこに「使われる」ですから、「円の中にはまりに行く」ようなイメージでしょうか。
ニシダ
ある程度決まった形のある仕事に、僕が入っていくという感じですか?
千田
はい。既存の枠に自分という素材を使ってもらうような仕事があれば、ぜひ受けてみてはどうでしょう。
ニシダ
なるほど!「指輪」そのままのジュエリーの仕事なんかが来ても、受けた方が……。
千田
いいですね。
ニシダ
まあ、来ないと思いますが(笑)。
質問2:小説をうまく書けるようになるには
この日のために、いろいろと本を持ってきてくれたニシダさん。2問目では、愛読書を使って占いを進める。
ニシダ
僕、今小説を書いているんです。そこで、「小説をうまく書くにはどうしたらいいか」を聞いてもいいですか?
千田
では、今回は2冊使ってみましょう。一冊目で「現状」を見て、2冊目で「理想」に辿り着くにはどうすればいいかを見ていくやり方です。
一冊目にニシダさんが選んだのは、取材前夜に読んでいたという雑誌。今度は自らページを繰り、言葉を探していく。
ニシダ
ここだ~~!
千田
では、その羽根ペンで適当にどこか一点を指してください。
ニシダ
はい!……こーこーだ~!
ペン先が指したのは、「収録」の語。
千田
熟語が出ましたね。2つの漢字どちらも、偏とつくりで左右に分かれている。このことから、ニシダさんは今、「小説を書く自分と他の自分とを分けて考えている」のではないかと読めてきます。
ニシダ
確かに、仕事として書いてはいますが、テレビやラジオの仕事とは別のものとして取り組んでいる気持ちがあります。
千田
また、漢字それぞれを見ていくと、「収める」や「録音する」といった意味ですよね。少し閉じ込められている感じがします。ですから、今ニシダさんは執筆に関して閉鎖的になっているかもしれない、と言えます。
その後ニシダさんが2冊目として手に取ったのは、『博士が愛した数式』(小川洋子著/新潮社)の文庫。またしても「ここだー!」と気合を入れ、パッと「一言」を見つける。それは、「お墓参り」だった。
千田
先ほどは二字熟語だったのに対し、今度はひらがなが漢字を挟んだ単語です。ただ、お墓もお骨を「おさめる」ものですし、漢字が2つというところは同じなので、二語が絶妙に繋がっています。つまり、ニシダさんの現状と理想とはそこまで離れていません。
ニシダ
よし……!
千田
けれど、「収録」と違い、「お墓参り」の語は真ん中で切り分けることができません。「墓」と「参」の漢字2つも、左右に分かれていない文字です。つまり、「小説モード」を捨て、「小説を書いているとき」と「それ以外」を一緒にしていくのが望ましい。
ニシダ
あまり意識せずに臨む、ということでしょうか。
千田
はい。あとはもちろん、「お墓参り」を字義通り受け取って行動するのもいいでしょう。お墓にちなんで、歴史やスピリチュアルなものを感じる場所に足を運ぶ、といったことも「理想」に繋がると思います。
ニシダ
なんだか、だんだんビブリオマンシーが分かってきました!自分が読んでいる本をこういうふうにも活用できるのが面白いです。
質問3:理想のパートナーシップ
ニシダ
今度は恋愛運も見てもらえるでしょうか……!?「自分にとって良いパートナーシップとはどんなものか」などどうでしょう。
恋愛運のためにニシダさんが選んだのは、昭和の名作『李陵・山月記』(中島敦著/新潮社)だ。
ニシダ
この本は、難しい言葉や漢字が出やすそうです(笑)。では……、えい!ここだ~~~!
ペン先が指し示したのは、「まだまだ」の一語。
千田
あれ、予想に反してひらがなが出ましたね!
ニシダ
こんなに漢字の多い作品なのに、意外です。
千田
このイレギュラー感もまた解釈の参考になりますね。つまり、ニシダさんの理想のパートナーシップは、少し変わっているものかもしれません。
ニシダ
既成概念にとらわれない!的な……?
千田
はい。ただ、ひらがなは柔らかいイメージを運ぶので、力まずに「こういうのもアリじゃない?」と普通とは少し違う関係を結びそうです。それから、「まだまだ」の母音にも注目を。全て「あ」なので、とても開放的。皆が知っているような相手と、オープンに育む関係。また、「まだ」という言葉を反復している語なので、一回破局した相手と再会して復縁、なども考えられます。
ニシダ
お~。そんなことまで読めてくるんですね!
質問4:ニシダが占う人間関係運
ビブリオマンシーにだいぶ慣れてきたニシダさん。今度は、占う側に立ってみることにした。相談をするのは編集者A。千田さんのアシストを受けながら、新米ビブリオマンシー師はどんな答えを授けるのか!?
ニシダ
僕の好きな本、太宰治の『晩年』(新潮社)を使ってみようと思います。使う本への思い入れも、占いに関係しますか?
千田
読み込んでいる場合は、文脈も熟知しているので出てくる言葉に感じることも変わってくると思います。それも全て入れ込んで占っていただいて大丈夫です。
ニシダ
わかりました!さあ、Aさん、何を占いましょうか?
編集者Aから出たのは、人間関係の悩みだった。
A
あまり連絡を取り合わなくなってしまった友人がいます。自分からメッセージを送ってみるか、もう少し待ってみるか、相談したいです。
というわけで、質問は「最近疎遠になっている友人に、自分から連絡をしてみるべきか」に設定。文庫本のページを探るニシダさんに、Aが「ストップ」と言う。
ニシダ
ここですね!!むむ、これは、「形」というところにペン先がかかっていますね。漢字一文字。とてもシンプルな解決策がありそうだ!……千田さん、どうでしょう?(笑)
千田
シンプル=時間がかからないとも考えられますね。問題は短期解決するかもしれません。
ニシダ
待つよりも、自分で動いたらすぐ決着がつくのかも。Aさん、自分から連絡してみましょう!さて、文字の作りを見ると、「形」も、左右に分かれた構造ですね。
千田
左側の部分、何に見えますか?ビブリオマンシーでは、漢字というシンボルの「かたち」から得るイメージも大切です。
ニシダ
この左側は、う~ん、鳥居みたいだなと。
千田
そうですね。枠組みや、区切りが想起されると思います。
ニシダ
「形」という意味自体も関係してきそう。枠組み、形……。形式や決まったフォーマットなどが連想できるのでは!?とすると、定型的な文で連絡してみる、というのがいいかもしれませんよ。
千田
ちなみに、この言葉が出てきた文脈はどんなものですか?
ニシダ
話全体の中ではそんなに重要なシーンじゃないんですよ。女性への偏見というか思い込みが書かれているのですが……。
千田
重要でない文脈なら、悩み自体を「重要じゃない」と考えていくこともできます。
ニシダ
なるほどー!では、「思い込みからきた悩みかもしれないから、軽く捉えていこう」とも読めそうな。Aさん、あまり思い悩まないでください!
A
それが、実際に、その疎遠になったきっかけも互いの思い込みによる行き違いだったかもしれないんです……!
ニシダ
おお、それでは、まずは当たりさわりのない定型的メッセージを送ってみましょう!あとは、つくりの三本線につなげたことも考えられそう。三月、三ヶ月、三人……。
A
疎遠になった相手と共通の友人がいて、三人組でした!
ニシダ
すごい一致!そのもう一人の友人に仲立ちしてもらう、というのがいいかもしれません。グループLINEで話しかけてみる、とか。おお、お悩み解決できました!
体験を終えて
ニシダ
正直、「占い」と聞くと押し付けがましいものを想像していたのですが(苦笑)、ビブリオマンシーは、広い解釈が許されているのが心地よい。相手と一緒に占いを組み立てていく感覚があり、コミュニケーションだなと思いました。
千田
そのように思っていただけて嬉しいです。ビブリオマンシーの解釈方法は人それぞれで、「絶対にこれ」というものはありません。友人同士で気軽にやってみても面白いと思います。
ニシダ
本は誰か他人が記したもの。一人で悩んでいると自分の中からしか言葉が出てきませんが、ビブリオマンシーだと自分の範疇にない言葉に出合えるのがいいですね。文字や単語の解釈をあれこれ考えるのも純粋に楽しい!