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尾道だからこそ撮れた、記憶に残る美しさ。|須藤 蓮『逆光』

BRUTUSCOPE

No. 943(2021.07.15発行)
焼肉で会いましょう。
須藤 蓮

 脚本は渡辺あや、音楽は大友良英と、日本シネマ界の重鎮が名を連ねる映画『逆光』が、広島県尾道市から封切られる。監督は今作の主演で24歳の新鋭、須藤蓮。

「役者は、映画への関わり方が限られるんですよね。僕は役を演じるだけじゃなくて、準備段階から携わることに憧れがあって。悶々としているときに尾道へ行くことがあったんです。古い町並みが残る場所で、新しいことに挑戦する同世代の人からかなり刺激を受けました。パワーのある町だなって、大好きになってしまったんですよ」

 尾道を訪れたのは映画『ワンダーウォール』の上映会のため。彼にとっては人生の転機となり、渡辺さんと出会う契機となった作品でもある。

「あやさんは仕事で出会った人で、初めて信頼できると思えた大人でした。世界の見方を教えてくれた人生の師匠でもある。実は、あやさんと作っていた別の自主映画の撮影が新型コロナの影響で延期になってしまったんです。辛い状況だけど、やっぱり映画を作りたい、と相談したら“この前行った尾道で、時代モノだったら作れるんじゃない?”って案を出してくれて。1970年代初頭までの日本は学生運動も盛んで、若者の勢いがあった時期。自分にも潜む、彼らと同じようなエネルギーを製作に注ぎたいと思って、動き始めたんです」

 渡辺さんから脚本が来たのは、なんとその1週間後。そこから一気に準備が進み、撮影が行われたのは昨年8月のこと。

「写真にも残っていない、心の中で噛み締めるしかないとっておきの記憶ってあるじゃないですか。そんな一瞬の輝きみたいなものを尾道で撮りたいと思っていて。海の場面では、まさに描きたかった美しい画を撮れました。反省点もあるけれど、自信を持って届けられる作品になったと思います」

 東京から興行すべき、という周囲の声もあった。が、尾道とは切っても切れない作品だからこそ、尾道から公開する意志を譲れず、自主配給に踏み切った。

「関わってくれた人や観に来てくれた人が一生忘れられない体験にしたかった。ヒットを狙うというより、時代の流れとともに消えていかない作品にしたくて。製作から配給まで自分が主体的に動けば、観客の顔も見えて、新たな気づきや出会いもあると思ったんです。“若いやつが監督なんだけど、案外面白くてさ”って具合に、この映画が広がっていくと嬉しいですね」

『逆光』

須藤蓮初監督作品。1970年代、真夏の尾道を舞台に、夏休みの数日間で起こる青年2人の愛憎を描く。シネマ尾道で7月17日から公開。7月30日までクラウドファンディングを実施(motion-gallery.net/projects/gyakkofilm)。東京ではユーロスペースとアップリンク吉祥寺で、今冬公開予定。

https://gyakkofilm.com/

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須藤 蓮

すどう・れん/1996年東京都生まれ。俳優、脚本家映画監督。2019年にNHKドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』『なつぞら』に出演。映画『蒲田前奏曲』が公開中。

photo/
Kazufumi Shimoyashiki
styling/
Tatsunoshin Takahashi (foyer.used)
text/
Nozomi Hasegawa

本記事は雑誌BRUTUS943号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は943号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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