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2人の作家が証言する、俳優・伊藤万理華の少女性と少年性。

BRUTUSCOPE

No. 942(2021.07.01発行)
音楽と酒・夏。

同居する、相反するキャラクター。

昨年末、根本宗子による完全オリジナルの新作として上演した『もっとも大いなる愛へ』。伊藤をはじめとする若手俳優4人の群像劇。|Masayo

劇作家・根本宗子が見た伊藤万理華の「少女性」。

 2016年に舞台『墓場、女子高生』を乃木坂46で上演すると聞いて、過去に私も出演したことがある作品で自分の中でとっても好きな戯曲だったので、それを“乃木坂ちゃん”がやるってどんな感じなのかな、って観に行ったんです。そこで主人公を演じていた万理華さんが素晴らしくて。どうやってその芝居に行き着いたのか、正直よくわからなかったんですよね。例えば、「嬉しい」みたいな台詞があったときに、普通なら100パーセントで嬉しさを表現してしまいそうなところを、万理華さんはストレートには表現していない気がして。それは、彼女なりの嬉しさを表現した結果なのか、あえてそうしたかったのかに興味があって、そこで気になる存在になりました。あと、声もすごく好き……。少女性に満ちた声の持ち主です。守ってあげたくなるような不安定な声なのに、彼女が芯の強い役を演じることによって、一生懸命そこに立っている人に見えるというか。自分の作品に入ってほしいって思いました。ここ数年、私の作品の世界観と、そこに出てくる女の子の役を託せる俳優さんを探していたのですが、それが万理華さんだった。

 実際に私の舞台に出てもらってバッチリ嚙み合いました。コミュニケーションを重ねていく中でわかった彼女の魅力は、「芯の強さ」と「危うさ」を併せ持っているところ。芯の強い女優さんはたくさんいるんですけど、経験を積みながらセンシティブな感性を共存させていくのは難しいと思う。でも彼女はそのまま持ち続けていて、だからこそ客席に届くものがあるというか。ヒリヒリもそのまま客席に届けてくれる。伊藤万理華というよりは、等身大の普通の女の子に見えるんですよ。過去2回、どちらとも背負うものが大きな難しい役をやってもらったんですけど、もしまた一緒に作品を作るときは能天気なギャルのような役も演じてもらいたいですね。大好き。

8月6日公開の映画『サマーフィルムにのって』は松本壮史初監督作品。伊藤は時代劇オタクで映画作りに奮闘する主人公を演じた。|©2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

映像監督・松本壮史が見た伊藤万理華の「少年性」。

 最初に伊藤さんの魅力に気づいたのは、乃木坂46の個人PVを観たとき。それ以来、気になる存在だったのですが、ワンカットで街を歩きながら、ポエトリーリーディングをする「はじまりか、」という作品で特にそのすごさを感じました。ダンスも表情もむちゃくちゃよくて、引き付けられてしまったんです。ちょうど劇団〈ロロ〉の三浦直之さんとオリジナルの映画を作ろうって話になった頃だったので、「伊藤さんが主人公だといい作品になりそうじゃないですか?」って、この映像を流して見せたんです。それをきっかけに、伊藤さんありきで『サマーフィルムにのって』の企画が進んでいきました。もともと、主人公はもの作りが好きな設定にしたいと思っていて。伊藤さん自身にも通じる部分だし、脚本を書けば書くほど、この役は彼女以外考えられなくなっていましたね。

 伊藤さんには動きも含めた全身というか、存在自体にえも言われぬキュートさを感じます。コロコロと変わる表情の中に、少年性を垣間見る瞬間もあって。今回演じたハダシも、17歳にしては子供っぽいと思うんです。小学生男子みたく、好きなものにひたむきで、周りが見えなくなるような。でも彼女は、そんなピュアな性格を切実に演じてくれるので、役に説得力を持たせてくれる。

 映像は舞台と比べてリアリティを追求されるから、ディテールをしっかり見せる必要があると思うんです。伊藤さんは、物語を背負うような強い台詞や、リアリティラインを無視したようなちょっと浮いた台詞を成立させる「声」も持っている。その声に、100パーセントのピュアな心情を乗せてぶつけられると、観客は心動かされざるを得ないですよね。今回のラストシーンでは特に熱がこもっていて、映画を撮れてよかったと感じた瞬間でした。役に入り切ったときに見える少年性と声は、伊藤さんにしかない魅力だと思います。

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根本宗子
ねもと・しゅうこ/1989年東京都生まれ。ラジオが大好きな劇作家。19歳で劇団〈月刊「根本宗子」〉を旗揚げ。脚本と演出はすべて本人が務める。

松本壮史
まつもと・そうし/1988年埼玉県生まれ。映像監督。2011年多摩美術大学を卒業後、CM、MV、映画などを手がける。伊藤主演の『お耳に合いましたら。』でも監督を務める。

伊藤万理華

いとう・まりか/1996年大阪府生まれ。女優。2011年、乃木坂46の第1期生として「会いたかったかもしれない」でデビュー。2017年に卒業。7月8日開始のドラマ『お耳に合いましたら。』(テレビ東京)で主演を務める。

text/
Nozomi Hasegawa

本記事は雑誌BRUTUS942号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は942号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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