アート

東京のまちで現実を拡張する芸術祭とは?

BRUTUSCOPE

No. 940(2021.06.01発行)
京都で見る、買う、食べる、101のこと
山縣良和の作品《Small Mountain in Tokyo》の構想模型。江戸の街作りをする時に真っ先に削られてしまったという神田山をAR技術で蘇らせる。

スマホをかざすことで既存の景色が拡張する新たなアート体験。

この夏、東京のまちを舞台にしたアートの祭典『東京ビエンナーレ2020/2021』が開催される。まちのあちこちに国内外60組以上のアーティストの作品が点在し、エリアを回遊しながら作品や地域の歴史文化に触れられるという特徴を持つ。昨年夏に開催される予定だったイベントは会期を1年延期。コロナ禍での作品鑑賞体験を含め、新しい芸術祭の在り方を考える試みとなる。作家として参加し、新たな体験の仕組み作りにも携わるAR三兄弟に芸術祭の見どころを聞いた。

AR三兄弟 左から、長男・川田十夢、次男・高木伸二、三男・オガサワラユウ。
芸術祭に参加されたきっかけは?
長男・川田十夢
最初に声をかけてくれたのはアートディレクター佐藤直樹さんなんですが、「ちょっと来ない?」と誘われて総合ディレクターの中村政人さんらと会話を重ねていくうちに、この大変な時期に市民が中心になって東京のまちを舞台に芸術祭をやるっていうことの意義を感じちゃって。こんな時期だからって文化芸術を作りたい気持ちや鑑賞したい気持ちは変わりませんよね? だったら僕らが入ることで、芸術祭の在り方自体を提案できたらいいなと思ったんです。
次男・高木伸二
東京ビエンナーレの思想とAR って相性がいいと思いました。東京のまちには歴史や文化があって、そのフレームごとアートを点在させようとする試み自体が拡張現実的。また、美術館の中に人を押し込めるのではなく、まちを巡るというスタイルは、一つの場所に集まれない今の時流に合ってるような気もします。
長年ARの仕事をされてきていると思いますが、ARで一番面白い部分は何でしょうか?
川田
VRとARの違いって水彩か油絵かの違いにすぎないと思いますが、ARの一番おもしろいところは現実と接続しているところだと思います。VRを体験している時に自分の足元は向こう側の世界にあって、それならではの没入感が得られる。ARを体験する時の足元は現実の地に足がついた状態で、現実世界に風が吹いたら自分は風を感じる。その現実世界に新たな世界がオーバーレイされていくという感じ、日常のちょい足しみたいな(笑)。

実空間にあり得ないものが出現!

どんな作品が展開されるのでしょうか?
川田
今回AR三兄弟はアーティストとして参加するのと、5人のアーティストとコラボレーションがあるので計6作品に参加しています。三兄弟の役割としては、僕が主に作品のネタを考えて、次男・三男は作品を技術的に実現する実行部隊となっています。例えば現代美術家の椿昇さんは、横浜トリエンナーレで巨大なバッタの彫刻を作ったり、ぐにゃぐにゃした巨大な脳みそみたいな作品を見せてくれたり、いつも度肝を抜かれる作品を作る方なんですが、そもそもすごく拡張現実的な作品だなと思います。
三男・オガサワラユウ
ビルの間にブッダの像が落ちてくる作品なんですが、開発中実際にスマホをかざしてビルを見た時に、椿さんの思考が伝わってきたというか。ARの作品というのは体験を伴うので自然とアーティストのイメージが流れ込んでくるような印象がありました。
現代美術家の椿昇によるAR作品《TOKYO BUDDHA》。写真は構想時のイメージ図。実在するビルの間に巨大なブッダが落ちてくる作品を予定している。その異様な光景は実際に体験したい。
川田
椿さんは、阪神淡路大震災の時、道路が倒れたビルの形になっていたことや、ぐちゃぐちゃになった線路をチキンラーメンのようだと思っていたと話されていて。椿さんの頭の中には、そうしたまちの質感みたいなものと超現実的なものが共存していて。そうしたイメージを手触りのあるものとして表現するためにいろんな試みをやっているんだと思います。また、建築家千葉学さんのプロジェクトも興味深いです。東京には無数のビルがありますが、その屋上を結んだら自転車のコースになるんじゃないかという建築家ならではの社会提案込みの作品です。作品をどこから見たらリアリティのある体験になるか、鑑賞ポイントも考えながら開発していくのがユニークです。
建築みたいな大きなものを、そこに在るかのように体験させるのはARにうってつけなのかもしれませんね。
川田
大きなものというのでは、「山」を作るアーティストもいます。writtenafterwardsの山縣良和さんです。かつて神田にあった神田山を現代に蘇らせるという。ファッションデザイナーなのに山? と思って打ち合わせに行ったら、山縣さんが粘土で作った山を見せてくれて。変な質感で、ものすごく洒脱で。その質感をものすごくスケールアップして提示できたらいいなと。まちの中でオーバーレイして見ると、山の中にビルが埋もれているように見えて。ものすごく不思議な感じです。昔の人たちは、変な形の岩を見るだけでそこから物語を想像していたんだと思います。東京という都市にもそうした想像の余地がいっぱいある。それを作家と僕らが掘り起こしているので、ぜひ探しに来て、体感してみてください。

『東京ビエンナーレ2020/2021』

テーマは「見なれぬ景色へ ―純粋×切実×逸脱―」。千代田区、中央区、文京区、台東区を中心に公共施設やビル等で国内外約63組のアーティストが作品を展開する芸術祭。AR作品も多数。7月10日~9月5日開催。会場、日程、チケットの詳細は公式HPへ。

tb2020.jp/

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AR三兄弟

長男・川田十夢、次男・高木伸二、三男・オガサワラユウ。さまざまなジャンルを拡張しているいまだかつてない開発ユニット。長男のラジオ番組『INNOVATION WORLD』が毎週金曜20時からJ−WAVEで放送中。

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Keiko Kamijo

本記事は雑誌BRUTUS940号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は940号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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