エンターテインメント

レ・ロマネスク TOBI『七面鳥 山、父、子、山』

星野概念「精神医学で診る本の診断室」

No. 940(2021.06.01発行)
京都で見る、買う、食べる、101のこと

「おまえの父ちゃん、ほんまにおもろい」。ほかの少年がフミャアキを高く評価するたびに、ぼくは肩身が狭い。酒飲みで破天荒だけど周囲に愛されるフミャアキと、そんな父親に振り回されて育った「ぼく」の39年。父との関係を綴った私小説。リトルモア/1,980円。

主治医・星野概念 診断結果:父が生きたその道を、いつか理解できる日は来るのだろうか?

 僕は父親との関係が良くありません。どうしてこうなったのか、考えるほどにわからなくなりますが、比較的頻回に思い出されては、なんともいえない気持ちになります。こんな自己開示を開かれた場所でしたくなったのはきっと、本作を読んだからです。本作の語り部「ぼく」の父フミャアキは、生きていくには内面よりもそとづらが大事だと息子に説き、最低でも週7で飲み会に参加し、外では陽気で目立つ存在です。外に多く注意を向けていれば、家族への気遣いは減ります。いや、もしかしたら、フミャアキも家族や「ぼく」に思いを向けていたかもしれませんが、それが伝わる言動はありませんでした。「ぼく」はフミャアキにただ振り回され続け、親子としての対話をしないまま大人になります。ちなみに、僕の父は明るいそとづら重視型ではありませんが、親子の対話をほとんどせずに年月を重ねたという点では、僕は「ぼく」と似ているように思えます。終盤、「ぼく」とフミャアキとの関係に、変化が訪れざるを得ないことが起こります。決定的な別れを経て、「ぼく」はフミャアキに心の中で語りかけますが、それはついに辿り着いた親子の対話の形でした。本作に出てくるフミャアキのエピソードは、おおむね笑えるものでしたが、「ぼく」ことTOBIさんはきっと、複雑な気持ちで本作を綴ったに違いありません。自分の物語を赤裸々に綴ることは楽なことではないはず。でも、綴り終わって救われたことも書かれていて安心しました。笑いながら、親子というものについて深く考えさせられる本作は、家族文学というものがあるならば、それの金字塔になり得ると思いました。

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ほしの・がいねん

精神科医など。著書『ないようである、かもしれない 発酵ラブな精神科医の妄言』が発売。

編集/
大池明日香

本記事は雑誌BRUTUS940号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は940号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.940
京都で見る、買う、食べる、101のこと(2021.06.01発行)

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