手間暇の育成/奇跡の生成「翌日カレー」

児玉雨子「〆飯」

No. 939(2021.05.17発行)
続・花と花束。
隠し味は、はちみつ、中濃ソース、オイスターソース、キムチ、豆板醤。具がほとんど溶けてしまったので、余ったじゃがいもをふかしました。

 忙しくても、誰にでも、すぐに作れるズボラ飯がテーマなのに、連載4回目にしてもう手の込んだような料理になってしまった。といっても、これは残りのカレーなので、ズボラの範囲内と認めてほしい。

 言い訳すると、わたしはカレーや煮物を作る際はもっぱら圧力鍋に頼っているので、そこそこズボラ度が高い。炒め物や揚げ物のほうがタイミング勝負だし、油も飛ぶので、片時も火から目が離せない。

 先日、味の素とBRUTUSの共同企画で俳優の永山絢斗さんと対談させてもらった。その際、永山さんは緊急事態宣言下で角煮やカレーなどをじっくり育成するように作って食べている、と話された。わたしが永山さんにズボラ飯を伝授するという企画内容だったのに、対談中はカレーのイメージで頭がいっぱいになってしまった。けれど帰ってすぐに作るわけでもなく「おいしいカレーって手間かかるしなぁ……」と、カレーに思いを馳せつつ1ヵ月ほどだらだら過ごした。

 3月末の夕暮れどき、仕事の気分転換にスーパーへ繰り出した。店先に陳列されたりんごをなんとなくひとつ、じゃがいも1袋をカゴに入れて店内へ進むと、お肉コーナーで牛すじ肉が安売りされている。ふと、冷蔵庫の中で眠る人参と新玉ねぎが脳裏を過った。カレー! 稲妻が落ちてきた。「カレーを作ろう」と意気込んだというより、カレーに「わたしを作れ」と念じられているような感覚に近い。

 帰宅してすぐ牛すじ肉を炒め、切った野菜、水、すりおろしたりんご、にんにくとしょうが(どちらもチューブのもの)、ローリエをそのまま入れて20分圧力鍋で加圧。その間に、書いておいた歌詞を一度譜面に書き写して譜割を確認し、データ化する。普通の鍋で1、2時間煮込むとなると、噴きこぼれや火の不安でなかなか作業に集中できないけれど、圧力鍋は比較的安心できる。譜面作業と共に加圧・冷却を終えて、どきどきしながら蓋を開けると、じゃがいもと新玉ねぎが輪郭を失いドロドロに溶けていた。後から入れればよかったな、と苦笑しながら、冷凍ブロッコリー、隠し味、カレールウを入れる。ここがカレー作りでいちばん楽しい。いろんなものを混ぜ入れて、自分味のカレーを作り上げてゆく。

 普段料理をするとき、わたしは作品を作ろうと意気込まない、というルールを持っている。作品に正/誤はないけれど、成功/失敗はどうしても生まれる。仕事ならまだしも、毎日の営みを逐一ジャッジしたくない。でも、例外のないルールはない。カレーは消え物の作品として、具を考えたり、アレンジしてみたり、冷蔵庫の余り物を掛け合わせてみたり。一晩置けば、りんごの甘みと、唐辛子やスパイスの爽やかな辛みが絶妙な奇跡を起こしていた。大成功。楽して仕込み、作ることを楽しみ、一晩寝かせて翌日の食事も楽しく楽する。またズボラにもできるおいしいカレーを生成できたら、懲りずにここで紹介させてください。

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こだま・あめこ

1993年神奈川県生まれ。作詞家、作家。ハロー!プロジェクトや私立恵比寿中学などアイドルグループを中心に数々のアニメやゲームソングに作詞提供している。

文・写真/
児玉雨子
編集/
辛島いづみ

本記事は雑誌BRUTUS939号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は939号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.939
続・花と花束。(2021.05.17発行)

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