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星野概念 × 市原 真|精神科医と病理医が共振する、本の話。

BRUTUSCOPE

No. 937(2021.04.15発行)
やっぱりマンガが好きで好きで好きでたまらない

(右)『ないようである、かもしれない 発酵ラブな精神科医の妄言』
人や菌や音楽や精神医療など、日常で出会ったさまざまな「ないようである」に思いを巡らせ、些細な曖昧を曖昧なままに大切に描いた、星野概念による初の単著。ミシマ社のウェブ連載が書籍化。ミシマ社/1,870円。

(左)『ヤンデル先生のようこそ! 病理医の日常へ』
病理医とは何か、市原真もしくはヤンデル先生とはどんな人間なのか。安易に書くことをせず、自らの発見や変化と向き合う決意の下に書いたエッセイ。病理医の仕事からツイッター論、幸福論まで。清流出版/1,650円。

2人の医師が互いのエッセイを読んで感じたことは?

星野概念
いつもヤンデル先生が薦める本を読んだりしていたんですよ。そしたらツイッターで僕の本のことを書いてくれて嬉しくて絡もうか迷ったんです。
市原真
そうでしたか。ミシマ社の本が好きで、表紙の「ある」がなんだか面白いな、くらいの軽い気持ちで読み始めたんですが、人偏に酉の字のくだりを読んで「あっ!」って気づきましたよ。蛇が巻きついたアスクレピオスの杖や、直から線が出た字もそうだ、全部本に出てくるんだなとわかって、探しながら読み進めていくのは本当に楽しい体験でした。
星野
漫画家の榎本俊二さんが、この絵のために本当に細かい試行錯誤をしてくださったんです。まさに、「る」の角に置いた「イ酉」の位置によって、表紙の絵の方向性が決まったと言っていました。
市原
「る」の最後の丸のところに、ワニ持って輪になった話が描かれていて、「る」の形をこう利用していらっしゃるのも粋だなぁと。本の中の意図と榎本さんの遊び心が、精巧に絡み合った表紙になっていますよね。普段は本全体から伝わってくるものを、フワフワした話し方で人に話すのは難しいなと思っています。言語化できるならビシッと言うんですけどね。でも波長が合ったのかな、この本に関してはもう、思いついたフワフワをそのままお伝えしたいと思いました。これくらいの長さのエッセイって途中でたるくなってしまうことも多いんですが、発酵やオープンダイアローグなど、僕の興味を絶妙にかすりながら話が進んでいくし、見事に面白かったですね。
星野
同じ1978年生まれという世代もあるのかもしれませんね。僕もヤンデル先生の本を読んで「めっちゃわかる!」ってたくさん付箋をしました。医者としては科も、臨床で向き合う対象も違いますが、病理医として「胃炎?」と医師が書いた「?」の部分に何があるのかをどこまでもわかろうとしていくことや、人を助けたいから医者になったわけではないというスタート地点も似ていて、いろいろと共鳴する点を感じていました。
市原
僕も概念さんが引っかかってくれたのと対応する同じ部分に、概念さんの本で引っかかっていたんですよね。
星野
病理の先生と、僕みたいな考え方をする精神科医で大きく違うのは、僕は必ずしも「答え」を出せないことだと思うんです。その人にラベルを貼ると、そこから追求しなくなってしまう怖さがある。ずっと考え続けることや、伴走することが大事で、だからこそ、その人の歩んできた物語をすごくわかろうと努力します。でも、ヤンデル先生の場合は、病気の正体が何か、答えを出さなきゃいけないお仕事ですよね。そうなると、答えを出すことが一番のクライマックスになりそうな気がするんですが、答えも大事だけれどそこまでの過程にどこまでフォーカスできるか、しっかり悩むのが本当に大事だというのにも感銘を受けました。
市原
病理診断見学を書いた部分ですね。僕のところに見学しに来る医学生は、必ずしも病理医になるとは限らない。そういう人に対して、明確な答えをつけてラベリングする仕事の背負った部分をきちんと持って帰ってほしかったんですよね。
星野
自分が変わりながら書くことに無自覚であったらいけないともあって、物事の過程にそこまで思いを馳せられることが、僕の勝手なイメージですけど、意外だったというか、こんなに話せそうな病理の先生がいたのかと思って。
市原
僕も本を読んで、ずっと自分の中で温めていたものが違う語彙になって、ガツガツと入ってくるように感じました。同時に、「ないようである」という言葉をさらに超えていくかのような、いろんなイメージが本の中にあるのが楽しくて。
星野
まとめ切れていないってことなんですけどね(笑)。連載を通して読んだ時に、なんだこれ、と思ったんですよ。面白いのは自分だけかもと不安でした。
市原
それがまさかの、超ハマったんで。まとめ切ったものを読むつまらなさもあるというか。こういう話をいいなと思うのもそうだし、もしかしたら、似ているところがまだまだあるかもしれませんね。
漫画家・榎本俊二さんによる装画。本の内容から描いたパーツを組み合わせて、きちんと「ある」として読めるよう細かな工夫が施されている。本を読んで、絵の答え合わせを!
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星野概念

ほしの・がいねん/1978年生まれ。精神科医など。病院に勤務する傍らで、ウェブや雑誌への執筆、音楽活動もさまざまに行う。本誌では「本の診察室」(p.114)を連載中。

市原 真(病理医ヤンデル)

いちはら・しん/1978年生まれ。札幌厚生病院病理診断科に勤務。ツイッターで「病理医ヤンデル(@Dr_yandel)」として、現在フォロワー数13.1万人の人気。著書も多数。

photo (BOOK)/
Kaori Oouchi
text&edit/
Asuka Ochi

本記事は雑誌BRUTUS937号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は937号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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