アート

画家・五月女哲平が観る、抽象画の巨匠・モンドリアンの回顧展。

BRUTUSCOPE

No. 937(2021.04.15発行)
やっぱりマンガが好きで好きで好きでたまらない
①ピート・モンドリアン《コンポジション 木々2》1912-13年、 デン・ハーグ美術館、Kunstmuseum Den Haag
②ピート・モンドリアン《大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション》 1921年、デン・ハーグ美術館、Kunstmuseum Den Haag

一人の人間として辿り着いた「均衡」。

「真新しさはない」。改めて作品を観て、そう感じました。それはネガティブな意味ではなく、幾何学的な《コンポジション》シリーズ(写真②)に象徴される20世紀のモンドリアン作品がデザインやファッションなどに影響を与え、いかに今の社会に馴染んでいるかを表しています。

 彼の作品において特筆すべきは、大きく変わる作風。初期の自然主義的な絵画が、少しずつミニマルな方向に変化していくさまは一見、絵画の文脈で創作を純粋に突き詰めていった過程のようにも思われます。しかし開催中の『モンドリアン展』で、作品の系譜を彼の人生と照らし合わせていくと、そこには「社会」が克明に取り込まれていることがわかる。第一次世界大戦の時代を生き、移動を余儀なくされたことで新しい作風と出会ったり、生活のために花を描いたり。社会を変えたいと、政治に傾倒したり。一人の人間としての彼の葛藤を感じ、同じ作家として共感を覚えました。晩年のミニマルな絵画群で描かれた「均衡」や「調和」は、彼自身が望んだ社会の在り方そのものなのだなとも思わされます。

 ちなみに僕が惹かれるのは、作風の過渡期に描かれた写真左の作品。外枠の線を引き画面を意識しているところに絵画らしさが残る一方で、シュルレアリスムの影響も垣間見える。彼が次の展開を思案していたさまが汲み取れて、面白いなと。

「色が綺麗だ」「リズムがいい」とグラフィカルに捉えるのも一つですが、もう一歩進んで向き合うことで、一枚の絵から得られるものは増えると思います。美術の営みは鑑賞者がいてこそ。情報に溢れる今こそ、鑑賞者自らが咀嚼し、自律性を持つことに意味がありますし、その行為が「大変な時代にアートなんか観てどうするんだ」という感覚を取り払っていける。抽象的な作品を描き続ける自分にとっては自戒を込めて、ですが。

『モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて』

生誕150年記念展。〜6月6日、SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1−26−1☎050・5541・8600*ハローダイヤル)で開催中。10時〜18時。月曜休。日時指定制。詳細は公式HPへ。

https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2020/mondrian/

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五月女哲平

そうとめ・てっぺい/1980年栃木県生まれ。ミニマルな図形からなる絵画を中心に、立体、写真、などを織り交ぜた作品を発表。キリンジや折坂悠太のアートワークも担当。

text/
Emi Fukushima

本記事は雑誌BRUTUS937号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は937号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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