アート

若手アーティストが美術館造ってみた。

BRUTUSCOPE

No. 936(2021.04.01発行)
猫になりたい
TOMO都市美術館をDIYで制作中の一コマ。

等身大の公共性を追求したアートの場を模索するための実践。

 西荻窪の南口商店街には、「都市とアート」をテーマに掲げる小さな美術館がある。美術館、といっても、有名建築家がデザインした瀟洒な施設があるわけではない。このTOMO都市美術館は一見すると1階を商店とするただの民家。およそ美術館らしくもなければ、あるいはアートスペースらしさもない。名前の「TOMO都市」とは館長のトモトシの名をもじったものなのだとか。

「若いアーティストにとって公立美術館での展示は一つの目標だけど、なかなかその道のりは険しい。じゃあ個人美術館かといったら、草間彌生美術館とか横尾忠則現代美術館とか、アーティストの名を冠した美術館はいくつかあるものの、そうした美術館が造られるのは基本的に作家が超大御所になってから。でも別にそういうルールがあるわけじゃない。そこで、勝手に個人美術館を造ったら面白いんじゃない? って、まだ無名の若手作家であるトモトシに焚きつけてみたんです」

 そう語るのは同館のアートプロジェクトディレクターを務める西田編集長(弊誌編集長とは別人)。その「焚きつけ」が行われたのは2019年末よりトモトシが毎週末開催していた『道』という路上飲み会の席のことで、同じく『道』に参加していた美術家の秋山佑太がたまたま2020年末に退去が決まっていた物件を西荻窪に借りていたことから、場を引き継いで、2020年4月にTOMO都市美術館がオープンすることになった。

都市の均質化に争う空間作り。

 館長のトモトシは「僕はここを公園のような場にしたい」と語る。

「普通の美術館って17時とかで閉まっちゃう。平日働いてる人はあんまり行けない。入場料も1,000円を超えたりしてて、客を限定してる。それって公共性という観点から言うと失敗してるんじゃないか。公園みたいに誰もが入れて、かつアートを観られるという場を作りたかった。だからここは終電までオープンしていて、入場も無料です」

 掲げる理念は「都市とは最高の出会いの場であり、変化しつづける場である」というもの。最近の都市は均質化していて凹凸があまりないと語る西田編集長によれば、「出会い」こそが都市に凹凸を生み出す手がかりであり、そのためにも「言い訳」が必要なのだという。

「トモトシ君ともよく話すんだけど、みんなが出会うための言い訳を作っているイメージなんです。展示やトークイベントもそう。何かを言い訳に人が集まると、そこに出会いが生まれる。そうした出会いが都市を面白くしていくんだと思う」

 実はTOMO都市美術館、昨年9月に突然の立ち退き要求によって退去を余儀なくされていた。その後、再始動のためのクラウドファンディングを行ったところ、目標額を上回る約150万円が集まり、現在はその資金を元に南口商店街にオープン予定の新館を改修している。

「4月中にはオープン予定ですけど、僕と西田は2階に住んでいるんで、いつ来てもらっても大丈夫。少なくとも僕の作品はいつでも展示してます」

 展示巡りをした帰りにふらっと立ち寄って感想を語りに来てくれても構わない、と2人は言う。アートを言い訳に人々が交差する「公園」のような美術館。果たして西荻窪の街にオモシロな凹凸を生み出すことはできるのだろうか。

展示スペースの完成図。チェックのバッグが可変式の家具となり、空間を構成する。
トモトシの映像作品「美しい日本の私たち」。
旧館で2020年9月に開催された下大沢駿の展示『さよならプラタナス』。
トモトシの作品「イフアイムーブミー」。
西田編集長(左) トモトシ(右)

TOMO都市美術館

2021年4月に新館オープン予定。トモトシの常設展示のほかに若手アーティストの展示やトークイベントも開催する。●東京都杉並区西荻南2−9−12。詳細は公式HP(www.tomotosi-museum.com)で。

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西田編集長

キュレーター。主な企画展示に「NIGHTLIFE」(ANB TOKYO オープニング展『ENCOUNTERS』内、2020年に開催)などがある。

トモトシ

「都市空間や公共ルールに歪みを生むアクションを行い、人の動きが変容する瞬間を記録する」をテーマに活動するアーティスト。

photo/
Kenji Chiga
text/
Minn Doupa

本記事は雑誌BRUTUS936号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は936号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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猫になりたい(2021.04.01発行)

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