エンターテインメント

話題のYouTube『街録ch』の三谷三四郎に聞く。

BRUTUSCOPE

No. 936(2021.04.01発行)
猫になりたい
三谷三四郎

現代のオーラルヒストリーがここに。

 生涯年収4・6億円を捨てた東大卒のエリート、複数の男性を同時に愛するポリアモリーの女性、妻がホストにハマり多額の借金を抱えてしまった男性、極貧生活のどん底から起業し成功したシングルマザー……。どんな人にもドラマがある。民俗学者の宮本常一は、市井の人々のドラマの積み重ねが人間の歴史であると考え、日本全国を訪ね歩き、その地で生活する人々の人生をインタビューし続けた。ジャーナリストのスタッズ・ターケルは、墓掘り人から大学教授までありとあらゆる職業の人々の人生をインタビューし、現代社会の姿を浮き彫りにした。『街録ch−あなたの人生、教えてください』と題した街頭インタビューを毎日1本YouTubeにアップする三谷三四郎さんは、現代に生きる人々のリアルなオーラルヒストリーを紡いでいる。彼こそ、現代の宮本常一であり、スタッズ・ターケルである、なんて言ったら言いすぎだろうか。すると彼は、「その2人とも僕は知らないです」と笑った。「ただ、去年の3月8日に取材を開始、翌9日からアップを始めて1年経ち、今まで200人以上の人生を聞きましたが、やっぱ誰もが物語を持ってるし、それを聞くのが本当に面白いんです」。しかし、毎日30分近くのインタビューを1本作るのは大変ではないかと聞くと、「テレビに比べれば全然。テレビ時代は1日22時間働いてましたから(笑)」。 

 元フリーランスのテレビディレクター。大学卒業後、バラエティ番組に携わりたいとテレビ業界へ。『笑っていいとも!』でAD修業を積み、ディレクターになってからは、『さまぁ〜ずの神ギ問』や『有吉ジャポン』など11年にわたりさまざまな番組に携わった。ちなみに、“地獄の”AD時代、『いいとも!』のテレフォンショッキング中に自身の携帯電話を鳴らしてしまったことも。

「1時間の番組であればそのうちの15分のVTRを担当したり、特番であれば細かいコーナーの担当をしたり。ダウンタウンさんの『笑ってはいけない』を1コーナー担当したこともあるんです。でも、いろんな番組に関わったところで、結局、自分に権限がないから自由に作れる場所がない。唯一、そういった縛りが緩かった番組が、東野幸治さんがMCだった『その他の人に会ってみた』。街中で見つけた一般の人たちの話を聞いてまとめるもので、以前から街頭インタビュー系は得意分野。めちゃめちゃ楽しくて、仕事をするうえで唯一の心のオアシスになってたんです。でも1年で番組が終わってしまい、楽しみがなくなってしまった。だったら自分でやろうかなと」

人生を語る人間が面白い。

 もともとYouTubeには興味があった。自分のメディアで、自由に作れるのはうらやましく思っていた。

「誰かのチェックを受けるわけでも直しを入れられるわけでもない。人選も自分で決められる。こんなに楽しいことはないなって。登録者数が1000人もいない頃から、好きこそものの上手なれじゃないけれど、これは一生楽しく続けられるなと。10年20年続けることで時代を振り返るアーカイブにもなるだろうし、何かがわかるかもしれないなって」

 最初は新宿の路上で絵を売る人やダンスを踊っている人、ホストなどに声をかけることから始めたという。

「でも、僕、怪しいじゃないですか。YouTubeでインタビューお願いしますと言って立ち止まってくれる人なんてほぼいない。ツイッターやインスタで興味のある人に話を聞かせてほしいとDMを送っても、10人声をかけて1人返ってくればいい方」

 それでもめげずに前進したのは、「オチを求めない楽しさ」があったから。オチのない余談の中にこそ「面白さ」があり「真理」は潜んでいる、と確信したからだった。

「テレビでよく言われたのは“オチがないとダメだ”ということ。でもそれにはずっと違和感があったんです。世の中にはオチなんてなくても面白い話はいっぱいあるし、そもそも一般の人はお笑いのプロではない。作ってる僕らも芸人ではない。なのになぜ面白おかしいオチをつけなきゃいけないのかなって」

 ゆえに取材は“ガチ”。取材対象と事前打ち合わせも一切せず、台本ももちろんない。出たとこ勝負だ。

「集合場所だけ伝えて来てもらって、何をやってる人なんですか? という質問から始めて、どこで生まれて、どういう家庭環境で育ったのかを聞いていく。だから、僕もその人のことを事前に調べないようにしてるんです。有名人じゃないと調べようもないし、SNSでオファーする場合、プロフィールで気になった人だけを選んでいるので、それ以外のことは一切調べません。会って、話を聞く。1時間2時間話を聞けば、だいたい面白い話って聞けるんです」

 そして、会った瞬間からカメラを回すのも彼の手法だ。それはテレビ時代に編み出した方法だという。

「声をかけた瞬間の顔が面白かったりするんです。“すみません”と声をかけた時の反応に人となりが出るというか。ただ、テレビの手法が生かせるのはそのくらい。最初のうちはテレビっぽい映像作りをしてました。テレビ的なテロップを入れてみたり、めんどくさいエフェクトを使ってみたり。ある時、疲れてそれをやめたことがあったんですが、再生回数がまったく変わらない。意味ないなって(笑)。出てる人の話が面白ければみんな観てくれるんです。とにかく、毎日投稿するから、日々トライ&エラーができるのも勉強になるし、視聴者の声がダイレクトにすぐわかるのもいい。初月は30本インタビューを上げて収益1万円でしたけど、やればやるほど続けたい気持ちがどんどん強くなっていく。だから、最初のうちは貯金を切り崩しながらでした。妻に内緒で(笑)」

 現在の登録者数は24万8000人。爆発的に増えたのは昨年9月。かつて「心のオアシス」だった番組のMC、東野幸治さんのインタビューが実現した時だった。

「ようやく1万人の大台が見えてきた頃、東野さんのインスタに“お話を聞かせてください”とDMを送ってみたんです。僕を覚えてるかなって。すると“全然ええよ。応援するよ”と」

 東野さんが今まであまり語ることのなかった若手極貧時代や結婚秘話、両親の話は大きな反響を呼んだ。

「ノーギャラで引き受けてくれたんです。東野さんにメリットなんて何もないのに。今、吉本興業の中尾班とコラボして、くすぶっている中堅芸人さんのインタビューをさせてもらっているのは、その時の恩返し。少しでも応援できればいいなって」

 そして、東野さんと同タイミングで敬愛するミュージシャン・大森靖子さんに主題歌を依頼、大森さんが二つ返事で引き受けてくれたことも大きな転機だったと三谷さんは言う。

「テレビディレクター時代、大森さんの歌は僕の心の支え。彼女の歌で“死ねば死ぬほど生きられる現代”という一節があるんですが、テレビの現場に感じていた不満の正体を可視化してくれたんです。大森さんの歌に出会わなければ、こんな活動はしていない。東野さんと大森さんに人生狂わされました、いい意味で」

 最近は、「話を聞いてもらいたい」というオファーが絶えず、取材対象を探す苦労が少し減ったという。

「僕に話をすることで自分の人生を納得したい、肯定されたいと思う人が多いのかなって。つい最近、“彼氏の会社を買収したくて自分の会社を始めた”という20代の女の子の話を聞いたんです。“大好きだからずっと一緒にいたくて”って。そんなの、想像もつかない話じゃないですか(笑)。ウソかホントかじゃなく、そういう物語を語る人間が面白いなってつくづく思うんです」

YouTube『街録ch−あなたの人生、教えてください』

声かけやアポからインタビュー、撮影、編集を三谷氏が1人でこなす、Youtubeらしい機動力とリアルさに富んだ、インタビュー番組。その名の通り、収録はすべて街中。千原ジュニア、武井壮、平成ノブシコブシ吉村、花田優一といった有名人も登場。

三谷三四郎が街で出会った、200人の物語、その一部。

「生涯年収4.6億円を捨てた東大卒エリート」。海外公演も豊富な和太鼓グループの代表。26歳で大手広告代理店を退社し、和太鼓に専念したその理由とは。

三谷さんが憧れるミュージシャン・大森靖子さんに街録チャンネルの主題歌制作を依頼したところ、なんと快諾。曲は「Rude」。そのレコーディング風景に密着。

「妻がホスト狂いで1700万円の借金」。東野幸治さんを抑えて、歴代1位の再生回数を記録。ちなみに動画の冒頭は三谷さんが歌を歌う(時にギターも)のが定番。

「4人と同時に付き合う女性/浮気にならない生き方」。複数の人を愛する「ポリアモリー」を実践している、きのコさんが登場。賛否両論、コメント数の多い回に。

「Youtuber転身でバカにされるも50万登録の逆転劇」。YouTubeで成功を収めた、元テレビディレクター。今あえてチャンネルを休止したわけとは。

「彫刻家で独立するも母が癌でステージ4/闘病生活支えるため廃業覚悟も、手を差し伸べてくれた…」。大森靖子さんの番組主題歌を聞いて彼女は号泣する。

「父が浮気で子供を作り、母・姉と共に島から追放」。メイドバーで働く彼女。「メイドに扮しているときがとにかく楽しい」という彼女が、生まれた島へ思うこと。

北九州連続監禁殺人事件の犯人の息子を初めて取材するなど、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーとして活躍した張江泰之さんが登場。

「保育士2年目/東日本大震災で卒業式がなくなった」。中学生から憧れていた保育士に就き、希望にあふれる女性。マスクの取材相手が多いのも2020年ならでは。

「数百億円を動かす敏腕ピンク社長」。11年間、4,000日、全身ピンクを着続け、世界中を飛び回り、ビジネスと社会貢献を両立させようと奮闘する女性。

「月給3万円シングルマザー /極貧生活からの逆転劇」。3人の子供を育てつつ、学生服のリユースショップを全国53のパートナー店舗まで拡大させた起業家。

「43歳 家庭を持つ母の仕事は官能小説家」。SMバーで知り合った編集者から仕事が広がり、ライターを経て、官能小説家へ。現在は育児エッセイも手がけている。

街録ch-あなたの人生、教えてください-

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三谷三四郎

みたに・さんしろう/1987年東京都生まれ。2020年3月、YouTubeで『街録ch−あなたの人生、教えてください』を開始。あらゆる人々の人生を聞くインタビューで話題に。

text/
Izumi Karashima

本記事は雑誌BRUTUS936号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は936号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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