ファッション

人間だけじゃない、キャラクターまで、 メイクで変身する。 - JIRO 特殊メイクアップアーティスト

別人格を形にするクリエイターたち。

No. 935(2021.03.15発行)
始まりの服。
繊細なタッチで、線の濃淡や太さを変えて仕上げていく。

 SNSで贅沢な生活を演出し、見栄えを追求して、承認欲求を満たす。果たして、“ワタシがなりたい自分”とは? 見た目で人を生まれ変わらせてきた、特殊メイクアップのプロ、JIROに、メイクが人格に及ぼす影響を伺った。


「18年間の活動を通して、おとなしい人が特殊メイクした途端、別人格が宿ったように明るくなったり、メイクに合わせて行動が変わったりする姿を何度も見てきました。それは周囲からの見られ方が変わることで、抑圧された内側の感情が解放されたのだと感じます。メイクの世界は大きく分けて特殊メイクと、ビューティメイクがあり、特殊メイクは、骨格すら変えたり、人間でもない想像上の何かに変身させたりするもので、ビューティメイクは自らを綺麗に見せるためのもの。しかし、最近は垣根がなくなっているように感じます。私は美しく魅するビューティメイクの先に特殊メイクがあると思うからです。それは美の価値が1つではなく多様化しているから、特殊メイクの領域まで美として捉えている若者が多いし、それを表現できる場所はSNSを中心に増えている。インスタグラムでビジュアルだけを世界に発信できる時代になり、個人の表現力が強まったことで、トレンドが消費されるだけの流れは崩れ、おのおのが影響し合う現状を面白く感じます。SNSで特殊メイクに近い表現で注目されている人を見ていると、幼い頃に影響を受けたキャラクターへ近づきたいという欲望を感じます。また人間の領域を超えたいという新ジャンルも、世界では少しずつ出てきました。美容メイクにとらわれず、自由に表現したい人にはいい時代です。私自身の話をすると、6年前に、顔に何個も目があるトリックアート作品をインスタグラムにアップしました。一見、CGのようだけど、市販されている化粧品だけで仕上げたことで、大きな反響がありました。その効果もあってか、私の仕事に対する反応の多くは、海外からのもの。ただ、日本人も、いつも秘めている内面を表に出した時の解放感を、よく知っていますよね。その一つがハロウィンです。ここ10年で盛り上がる日本のハロウィンは、今回のお話と近いものを感じます。特に、毎年川崎で行われている日本最大級のハロウィンは、クオリティが上がっているし、お祭りという解放された環境があると、日本人もここまで自由に表現するんだな、と。あと、映画でいえば、世界的に流行り始めたマーベルコミックの影響も大きい。主人公はミュータントや特殊な人間じゃないですか。リメイクされた映画が注目されている現状から推測するに、昔以上に、多くの人が特殊なキャラクターに憧れを持ってきているんじゃないかな。テクノロジーの進歩により、パラアスリートが超人的な能力を発揮したり、誰でも身体拡張ができる可能性にみんな気づき始めている。幼少期に、多かれ少なかれ抱いた、人間の領域を超えたいという人の潜在欲求は理解しやすいですよね。私自身も、幼い時に変身願望はあったようで、ロスにいた4歳の頃の写真を見ると、ゴリラのお面にカウボーイハットを被っている。当時は、マーベルのハルクに憧れていました。どこか今の仕事につながっているかもしれません」

顔が溶けているように見えるトリックアート作品。
30代の男性も、ここまで老いた風貌に。深いシワの一本一本を、絵画を描くようにメイクしていく。
メタリックカラーのメイクと、胸元に描いたアクセサリーのボディペイントで、ブルゾンちえみをクレオパトラに変身させた。
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profile

ジロー/2000年東京藝術大学卒業後、特殊メイクの道へ進み、有限会社自由廊を設立。現在では、特殊メイクアップや造形制作にとどまらず、クリエイティブディレクターとしても多方面で活躍中。

interview&text/Keita Tokunaga edit/Keiichiro Miyata

本記事は雑誌BRUTUS935号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は935号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.935
始まりの服。(2021.03.15発行)

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