アート

オカモトレイジが熱視線を送るヤビク・エンリケ・ユウジとは。

BRUTUSCOPE

No. 935(2021.03.15発行)
始まりの服。
ヤビク・エンリケ・ユウジ(左) オカモトレイジ(右)

ストリートから見た荒廃をコラージュで表現。

渋谷〈DIESEL ART GALLERY〉にて、個展『MOTION』を開催中のヤビク・エンリケ・ユウジ。会場入口には、彼自身が書いたステートメントがある。「ある日、ふと高架橋を見ると経年劣化とグラフィティが目についた。技術が発達して複雑化し、完璧なものを求めるこの世の中で美しいと目を引くものは、生々しい現実の違和感だった(後略)」。その作品は、ストリートで感じた現実を落とし込んだ、生々しく狂気を孕んでいて美しい。現在では東京のアート・ファッションシーンで注目を集めている。そんなヤビクと作品をよく知るオカモトレイジが『MOTION』の会場を訪問。出会いからキャリアのスタートを振り返りつつ、ヤビク本人と展示作品について語ってもらった。

オカモトレイジ
最初に出会ったのは、2017年の11月中目黒〈WK Gallery〉で開催したエキシビション『YAGI』だったよね。いろんなヤツらが、仲間同士で集まってクルーを形成していて。音楽やTシャツを作ったりして、ポップアップイベントを開催していたんだけど、そういういろんなクルーごとひっくるめたデパートのようなポップアップがやりたくて、『YAGI』を計画したんだよね。
ヤビク・エンリケ・ユウジ
豪華なメンバーが参加していましたね。
レイジ
共同開催者でアパレルブランド〈TTT_MSW〉を運営する玉田翔太がインスタグラムで、超かっこいいコラージュをやっている人を見つけたから、誘いたいという提案があって。作品は超かっこいいのに、フォロワーがなぜか150人くらい(笑)。「謎すぎるけど、こういうの最高!」ということで連絡したんだよね。その時は、まだ作品を作り始めたばかりだったんでしょ?

バイトを辞め、制作を優先。

ヤビク
2ヵ月目くらいかな。当時は文化服装学院を休学し、アルバイトをしていたけど、なにをやってもしっくりこなかった。ところがある日、海外の雑誌を見つけて、写真の質感が日本のものとは全然違っていたのに衝撃を受けました。そこから写真やタイポグラフィを切り抜いて、コラージュを作り始め、ひたすらインスタグラムにアップし始めたばかりでしたね。玉田さんと会う約束の日、実はバイトが入っていたんですが、作品を見ていただいたことが嬉しくて、休みをいただき、そのままフェードアウトしちゃったんだけど……。
ヤビクをコラージュ制作へ導いた洋雑誌。「池袋の古書店で見つけた米版『PLAYBOY』はすでに切り抜き箇所が(笑)。『max』は犯罪からハイブランドまで、ポップにまとめた内容」
レイジ
どうしようもない若者だ。
ヤビク
本当に……。最初にレイジさんに会った時、音楽からファッションの関係者はもちろん、初対面だった僕の友達にまで、いろいろな人と分け隔てなく話をされていて、「歩くコラージュ」だと思いました。
レイジ
『YAGI』では、ヤビクの作品数がほかの誰よりも多く、しっかり作ってあった。キャンバスにコラージュが剥き出しのまま貼ってある状態。少し素材が剥がれてたりして。粗削りな感じもすごくかっこよかった。その時、何点か売れてたもんね。
ヤビク
半分ぐらい売れました。趣味で作っていただけで、1点売れたら嬉しいくらいの気持ちでしたが、売れたのですぐにバイトをやめて、制作に専念しようと思ったんです(笑)。
レイジ
無名のアーティストなのに、作品の説得力だけで売れるなんてすごいと思った。その後、インスタでTシャツを売ってたよね。ストーリーズに現物をアップし、24時間以内にダイレクトメッセージをくれた人に販売するという斬新な方法で。
ヤビク
当時はマジでお金がなくて、連絡が来た枚数だけ作りました。作品の画像をTシャツ用のプリントシートへ転写し、一枚ずつハサミで切ってアイロンでつけていました。
レイジ
ハンドメイドだから、クオリティがめちゃめちゃ高かった。しかも、発送する段ボールにもコラージュしてて。箱も捨てられないっていう。それはいまだに自分でやってるもんね。
ヤビク
今も段ボールにガムテープで封をする時は自分でやっています。
レイジ
今回の個展『MOTION』の作品はどうやって作っていったの?

原点を大切に進化していく。

ヤビク
僕はもともとインドア派で、友達から誘われない限り家から出ないタイプ。今回の制作は2ヵ月半で、親とFELSEM名義で一緒に作品を作っているTOTOKI SAKURAとしか会わないで、ひたすら籠もって一気に全部作りました。ほぼ誰にも会わず、今まであったアイデアを引き出し、絞りまくって。最終的にはいい感じになりました。
レイジ
まずメインビジュアル(ページトップで2人が見ている)作品。車のフロントガラスが割れている写真かな?
ヤビク
友達に北海道の小樽で撮ってもらったものです。この「(UN)EXPECTED BEAUTY in DEVASTATION」は「予期できない荒廃から生まれる美しさ」という意味。壊れた車を見て、いつどのタイミングでこういう風になるのかわからない、それが予期できない荒廃。不完全なもの、壊れたものを集めて、ギュッと凝縮してみると、そこから美しいものが生まれてきたんですよね。
レイジ
ヤビクの作品をずっと見ている人間としてはわかるんだけど、割れたガラスの上に、いろいろな作品に用いられている、なんともいえない淡いピンクが使われていて。これがすごくきれいなんだよね。僕はヤビク・ピンクと呼んでいるんだけど(笑)。
ヤビク
気づいてもらえて嬉しいな。
レイジ
一番最初から取り入れているスタイルと最新のものが、こんなにうまくミックスされているのがいいね。勝手な感想だけど最近の10代、20代の人って、受け手からすればまだ古くなってない手法なのに半年ぐらい経つと飽きて、自分のスタイルを確立させる前に“最新”を追い求めて作風を変えてしまうことが多い。要するに客観視があまりできてないと思う、自信があればそれでもいいけど。ヤビクは自分のスタイルを大事にしながら、どんどん進化を続けている。新鮮に見えるし、著しい成長も感じられるという。それが現時点でヤビクの一番の魅力だと思うんだよね。

加工した和紙にプリントした「Lack」シリーズ。

「紙が凸凹しているけど、どうなってるの?」(レイジ)。
「粗い素材の和紙を使ったんです。余白を効果的に使いたいと思って、プリントがのらない箇所はそのまま。さらにデザインで余白を追加して」(ヤビク)

錆加工を施したデッキ「The other side」シリーズ。

「家具屋・松本ツキ板工業には、どんな素材でも錆加工ができる技術があって。『YAGI』の時に知り合って、初めてコラボした作品。加工してもらった後に、自分でも錆のグラフィックを重ねました」(ヤビク)

ヤビク印のコラージュ「Untitled」シリーズ。

「LAのホテルで配られていたマッチや、インスタレーションの制作で使った紙やすりなど、ここで再利用して」(ヤビク)。
「海外で見つけたかっこいいゴミは日本へ持ち帰り、ヤビクのお土産に(笑)」(レイジ)

絵具と和紙を使った「Running from myself」。

「素材の質感をうまく使ったコラージュ。一見絵具を塗りたくっただけに見えるけど、実はキャンバスに和紙が張られてたり、細部まで丁寧に作られていて。基本型と最新型がマッシュアップされている」(レイジ)

台が噛み終えたガムのような「Reflection Ⅰ」。

「アナログとデジタルの融合。データを加工して出力したものを、鏡にハンドプリントしていきました。ここまで大きな作品を作ることはなかったけれど、結構デカイものができましたね」(ヤビク)

スケーターの休憩所は、フォトスポットに。

「プロダクトデザイナーTOTOKI SAKURAとのクリエイティブチーム〈FELSEM〉で制作。彼女のミニマル志向を生かした和とストリートの融合を目指して」(ヤビク)。「ライブの舞台装飾にいいかも」(レイジ)

『MOTION』

コラージュから巨大オブジェまで、現在のヤビクを表現した全32点を展示。5月13日まで開催。●問合せ/DIESEL ART GALLERY☎03・6427・5955。詳細は公式ウェブサイトで確認を。
www.diesel.co.jp/art

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ヤビク・エンリケ・ユウジ

1997年ブラジル・サンパウロ生まれ。11歳で日本へ移住。2017年コラージュを用いた活動を始め、オカモトレイジ主宰のエキシビション『YAGI』に参加。以降、幅広い媒体で作品を発表している。

オカモトレイジ

OKAMOTO'Sのドラム。3月19日に「Young Japanese」「Complication」の英語ver.を配信リリース。インテックス大阪で開催される『START UP!! −ロックの春2021−』(3月30日)出演予定。

photo/
Jun Nakagawa
text/
Katsumi Watanabe

本記事は雑誌BRUTUS935号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は935号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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