エンターテインメント

ホムンクルスから、ブラック・ダリアへ。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 935(2021.03.15発行)
始まりの服。

 久しぶりに〈ホムンクルス〉という物騒な言葉を見かけた。これは山本英夫の原作漫画が綾野剛主演で実写化されたからか。

 アレイスター・クロウリーの性魔術をモデルに作家サマセット・モームが書いた異色作『魔術師』登場の〈ホムンクルス〉が自分には親しい。親しいという言葉が似合わないか。ともあれ、国書刊行会から出た革命的な『世界幻想文学大系』の一冊として読んだのは40年も前だ。しかし、いまだにラスト近くの生命創造の結果のおどろおどろしい描写は鮮明である。

 モームの『魔術師』の原書は1908年の刊行、その16年後の24年に〈ホムンクルス〉創造のむごたらしさにおいてモームを凌駕する小説がアメリカのシカゴで刊行されている。断っておかなくてはいけないが、〈ホムンクルス〉はわずか寸秒の出現であり、他はそれよりはるかに醜悪な幻想が吹き荒れている。特に建築物描写がすごく、それ自体生きているかのように感じさせる。〈猟奇〉の総本山のような建築といおうか。題名はストレートに『悪魔の王国』、この書と呪われた双子のような関係の『ファンタジウス・マルレア』(原作は1922年)が、合本として翻訳刊行された。訳者は絹山絹子、版元は蝸牛のささやき(黒死館附属幻稚園)で、いかにも内容にふさわしく怪しく魅力的な版元と言わねばならない。

 20代の若書きで〈猟奇〉をきわめた著者は誰か? シカゴの文学界ではうまくいかず、ハリウッドに流れ着いて、そこでアルフレッド・ヒッチコック『白い恐怖』ほか脚本家として名声を得たベン・ヘクトである。

 ベン・ヘクトのこの書になぜ興味があったか? それは1947年の1月に起こった、史上もっとも不可解でいまだに語られ続けるエリザベート・ショートの未解決殺人、いわゆる〈ブラック・ダリア〉
事件の直後に、ヘクトは、自分は犯人を知っている、と書いていたからだ。結局、当時そのような発言者は多く、うやむやになったが、どうも美術家のだれかを念頭においていたらしい。

 しかし、『ファンタジウス・マルレア』を警察が読んでいたら、警察はまず、ヘクト自身を疑っただろう。こいつはアタマが壊れてる!

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たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS935号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は935号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.935
始まりの服。(2021.03.15発行)

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