ミレニアル世代が探る雑誌の可能性とは?
2020年に誕生したインディペンデント雑誌がある。ユースカルチャーの最前線を追う『NEUT』、既存のジェンダー観に問題提起する『IWAKAN』。それぞれの編集者の平山潤さんとYuri Aboさんはなぜ紙メディアを作ったのか?
- 平山潤
- 雑誌を作ろうと思ったきっかけは、緊急事態宣言下でずっと家にいた時に読み返した『relax』『STUDIO VOICE』など昔の雑誌。読んでいて、僕自身、すごく救われたんです。僕らが普段作っているWeb媒体『NEUT Magazine』は過去記事を掘り起こされることが少ないけれど、雑誌だと時代を経ても読まれるんだなと。それで、社会問題など取り扱うテーマはWebと変わらず、それぞれに大変だった2020年を数年後にも振り返ってもらえるよう、紙の雑誌にしました。あと、『NEUT』では毎年読者が集まれるイベントを開催していたのですが、昨年は断念したので、集まらなくても楽しめる場所としても雑誌がいいなと。
- Yuri Abo
- 私たちも動機は『NEUT』と同じです。これまで『IWAKAN』を発行するREINGで作ってきた、ジェンダー問題をオープンに話せる場所を違う方法で試みたいと思い浮かんだのが雑誌。永久保存されるメディアを目指しました。それと、「トレンドを入れない」「答えを決めない」「ロールモデルも提示しない」と決めて、答えを提示するのではなく、違和感を問いかけようと。
- 平山
- 一部のコミュニティだけじゃなく多くの人に届くように意識しながらお互い作っているよね。
- Yuri
- 社会問題に興味はあるけれど、どこから入っていいのかわからない人って多いですよね。それでも、自分でお金を出して手元に雑誌を置くことは、「問題に興味がある」という意思表明になるはず。読んだ後、自分の考えを誰かと対話する時に、雑誌が「武器」のように、持っているだけで自分らしくいられる存在であってほしいです。
“イシューで繋がる”雑誌を目指す。
- Yuri
- 『NEUT』の「MATTER OF CORONA」という読者参加型の企画が好きで。SEXなどのテーマをオープンに、かつ、ページに参加している読者が若いからリアルな意見ばかりで面白かった。
- Yuri
- すごい! 私たちも読者と作ることは大事にして。今回アンケートに約160名も参加してくれたんです。意見も様々。回答を恣意的にピックアップしたら、それは自分たちの答えを提示してしまうことだと思い、全員の回答を載せました。全部読みましたという声や、知り得なかった発見もあって、誌面上で意見交換できたことは、読者を巻き込む価値だと思いました。
- 平山
- 今年はまたどうしようか考えるね。
- Yuri
- 一つの理想として、書店の景色を変えたい。本屋さんって、男性誌/女性誌と性別でコーナーが分けられていますよね。そうした分断は、性を定めていない人やクイアの存在を無視している。私たちのような雑誌は、日常生活でニュートラルな価値観に触れられる機会になるのではないかと。
- 平山
- 僕らの雑誌はカテゴライズされない、という雑誌の根本を覆しているのかもしれない。
- Yuri
- “イシューで繋がる”雑誌なのかな。想定以上に反響があって嬉しい一方で、紙媒体は在庫が残るとゴミになる。環境的な問題も考えながら、作り続けていきたいです。
平山 潤
- photo/
- Shu Yamamoto
- text/
- Yoko Hasada
本記事は雑誌BRUTUS934号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は934号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。