アート

表現を通じて、故郷を見つめ直すということ。

BRUTUSCOPE

No. 934(2021.03.01発行)
なにしろラジオ好きなもので③

展覧会が映す、過去に生きた詩人といまを生きる2人の共鳴。

 北に渡良瀬川、南に利根川と豊かな川に挟まれるようにして人々の生活が営まれる群馬県太田市。同地出身の詩人・清水房之丞(1903~64)は、自身の作品「村の七月」のなかで、土と川に恵まれたその情景を「村の田圃は雲が湧いた様にまんまんと水だ」と詠んだ。軽妙で独特な擬態語を交えた清水の詩からは、東毛地域の地形や気候、そしてその地に生きる「農村生活者」としての視線も感じ取ることができる。

 現在、太田市美術館・図書館では太田にゆかりのある3人の表現を通じて同地の風土を見つめ直す『HOME/TOWN』を開催中。出展作家は清水と、オブジェを用いたセルフポートレートで知られる美術家・片山真理、地方都市をテーマに作品を手がける写真家・吉江淳の3人。デザイナー・平野篤史の演出により、大きなガラス窓や屋上庭園を含む展示室内外に展示される9編の清水の詩は、スパッタリングや錆加工を施した金属で切り抜かれ、それぞれ異なる色や素材の実体を持つことで鑑賞者の故郷への懐古を後押しする。

詩人・清水房之丞の場合

戦前と戦後を含む昭和の時代に、生涯を通して郷土で詩や俳句を書くことに心を傾けた清水房之丞。教育者でもあった彼は、詩をはじめとした文学を通して、子供の健やかな成長に寄与することを目指していたという。瑞々しい田園の描写などからは、彼自身も子供のような眼差しを持っていたことが窺える。

美術家・片山真理の場合

片山真理《on the way home #001》2016年、タイプCプリント、作家蔵

先天性の四肢疾患により9歳のときに両脚を切断した片山真理は、自身の体を模した手縫いのオブジェとともに撮影したセルフポートレートで知られる。今回の展示の冒頭を飾る本作もそのうちの一つ。片山が「完結しないもの」の象徴と捉えた川は、常に流れ続ける、止まることのない作家自身の表現行為にも重なっている。

写真家・吉江淳の場合

吉江淳《川世界》2016年、タイプCプリント、作家蔵

町に視線を向けて風景の撮影を続ける吉江淳にとって、写真を撮ることとは「"自分の外側にあるもの"に出会う行為」だという。今回の展示では、吉江が日々出会ったものに対して繰り返し反応(撮影)していく過程でかたちづくられた、作家自身にとっての「故郷」が縦横無尽に表現されている。

人工と自然の混在を表す。

 本展の見どころは、3人全員の作品が集結する展示室1。真っ先に目に飛び込んでくるのは、片山が「帰途」をテーマに群馬県内の川辺を背景に撮影したセルフポートレート「on the way home」だ。片山は作品について「ずっと続いていくものであるべき」と考え、完結しないものの象徴として故郷に流れる川を舞台に選んだという。そしてその奥には吉江が「地元」を写した計105枚もの写真が壁一面に。天候や時間に関係なくグレイッシュなトーンが貫かれた一連の作品群は、吉江いわく「太田で生まれ育ったことで自身に刻まれた自然と人工との中途半端な距離感を持つ景色」とのこと。

 同じ写真による表現を選びながら対照的なスタイルを持つ片山と吉江の2人に、お互いの作品への印象を聞いた。先述の作品のほか、新作インスタレーションも発表する片山は、「吉江さんは日々変わりゆく故郷や地方をモチーフに、立ち止まるように"写真"というメディアと向き合われている印象を受けます。105枚の写真は、季節や天気の違いにも気づけないほど完璧に同じトーンで揃えられていますが、すべて手焼きと聞いて技術の高さに驚きました。近年私は、彫刻の一部として写真を扱っていると自覚し、自分の表現への理解を深めてきましたが、もし写真を突き詰めるべきか悩んでいた頃に吉江さんの作品を見たら悔しかっただろうと思います」と話す。

 一方吉江は、片山の作品に不思議な印象を抱くと同時にある共通点を発見した。

「セルフポートレートは、普通どこかエゴが表出してしまうものですが、片山さんの作品にはそれがなく、不思議な透明感があります。それは片山さんがご自身の写真を"鏡"ではなく"窓"にして外側の世界を見ているからなのかもしれません。そのスタンスに共感すると同時に、お互いの作品から滲み出る人工と自然の尺度も近いように感じました。対照的な写真作品のようで、どちらにも太田の風土が染み込んでいる気がします」

 日々繰り返す移動のなかで、私たちがなにげなく見つめる「いま・ここ」。生活者であり表現者である3人の作品からは「故郷」とは何かという本質的な問いが立ち上がる。ステイホームが求められる今こそ、向き合ってほしい展覧会だ。

開館3周年記念展『HOME/TOWN』

ディレクションは小金沢智が担当。~5月30日、太田市美術館・図書館(群馬県太田市東本町16−30☎0276・55・3036)で開催。10時~18時。最終入場17時30分。月曜休(5月3日は祝休日のため開館し、5月6日休館)。観覧料500円。

https://www.artmuseumlibraryota.jp/post_artmuseum/4790.html

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片山真理

かたやま・まり/1987年生まれ、群馬太田市育ち。2012年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。「ハイヒールプロジェクト」として歌手やモデルでの活動も行う。

吉江 淳

よしえ・あつし/1973年群馬太田市生まれ。97年中央大学文学部卒業。スタジオ勤務などを経て都内でフリーランスとして活動開始。2002年に帰郷し、地方都市をテーマとした作品を中心に制作。

photo/
Atsushi Yoshie
text/
Mami Hidaka

本記事は雑誌BRUTUS934号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は934号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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