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「さすらいの男と女は今いずこ」

戌井昭人『沓が行く。』

No. 934(2021.03.01発行)
なにしろラジオ好きなもので③

 電柱の陰に隠れた女がひとり、前歯が抜けてしまって悲しんでいる。空を見上げてみれば、その青さに血の気がひいた。雪からネズミが飛び出してきて悪だくみをしている。電線の上で、バランスをとりながら歩いている男がひとり、足の小指がすっ飛んでしまい悲しんでいる。空から新聞紙ひらひら舞いおりてきて、男の頭に乗っかった。インクから昨日の事件が臭ってきた。男は前歯の抜けた女に声をかけ、逃避行をすることにした。

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いぬい・あきと

〈鉄割アルバトロスケット〉主宰。劇作家小説家。著書に『俳優・亀岡拓次』(フォイル)、『ひっ』(新潮社)など。

編集/
村岡俊也

本記事は雑誌BRUTUS934号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は934号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.934
なにしろラジオ好きなもので③(2021.03.01発行)

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