エンターテインメント

犯罪エンタメ、 昨今、中国がエモい。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 933(2021.02.15発行)
アイドルマスター

 中国の犯罪ドラマですごいのにネットフリックスでぶちあたった。ヤバい、エモい、というネット言語がふさわしいドラマ、2017年放映の『Burning Ice(バーニング・アイス 無証之罪)』である。過去のある殺人事件の真犯人を探して公安(警察)に救いを求めるために起こされた連続殺人事件、それに使われたのが雪だるま(スノーマン)だ。アベック2人が女性の身をまもるために、偶発的に起こした殺人、そこに姿をあらわした1人の……。このミステリアスな男の存在が哀切をきわめ、実に魅力的だ。小生と同じ病の持ち主であるがゆえに共感レベルも高い、そして若きヒロインがこの病身の男に寄せはじめる恋情にこちらはわが身を置き換えつつ、涙するわけだ。ドラマの正しい見方であろう。

 ともかくはげしくからみあうプロットが常に慟哭をよびおこし、感銘を受けた。

 こうしたドラマを観たとき、では小説世界でこれにみあった作品とかあるだろうか? といういつものジャンル越境心に駆られ、探しあてたのが、周浩暉『死亡通知書 暗黒者』(稲村文吾訳/ハヤカワ・ミステリ)だった。こちらは、去年の夏に邦訳刊行されたばかりだ。昨年公開の『鵞鳥湖の夜』がそもそもこうした中国産犯罪ものへの呼び水で、映画、ドラマ、小説と興味を移行させて、中国の底知れなさに触れることになった。

『死亡通知書 暗黒者』も期待を裏切らない。プロットはこちらの想定をミステリーの常として裏切りつづけるわけだが、その裏切りに裏切られたという気がしない。とにかく徹底的に突き詰めた設定が緊張感を与えつづける。

 予告殺人を完璧に実行する〈エウメニデス〉という謎の殺人鬼の設定の巧みさ、ギリシャ神話の復讐の女神の名前を借りた〈エウメニデス〉とは何者か? そもそも18年前の警察学校時代にその名の誕生にかかわった刑事ルオ・フェイ(羅飛)は、当時の同期爆殺事件のトラウマをいまも抱え込んでいる。その彼が周辺の彼への疑惑をかいくぐり、カムバックした〈エウメニデス〉を追いつづける。権勢を手にしたやつらは法律の上に立つ、これだけは世界どこも同じと知れる。

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たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS933号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は933号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.933
アイドルマスター(2021.02.15発行)

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