"熱狂の先"への憧憬。
『あの頃。』の舞台設定である2004年、僕は色々あってLAに海外留学をしていた。友達もなく、家でインターネットするか、近所のブラジリアン柔術の道場(先生はヒクソン・グレイシー)に行くか、というある意味最低で最高な日々を過ごしていた僕の元にある日、日本から友達が遊びに来た。その友達が手土産に持ってきたのが、劇中でもキーアイテムとなる松浦亜弥さんのDVD『松浦シングルMクリップス(1)』だった。元々、僕はモーニング娘。OGである市井紗耶香さんのファンだったが、03年に海外に行ってから物理的にも距離ができていたハロプロ。そんな中、不意に手に入った松浦さんのDVDは、本人の偉大さは言うまでもないが、楽曲がとにかく素晴らしく、さらに家から出られなくなる状況を生み出した。
ハロプロの特徴は、音楽事務所ならではの曲のクオリティだと思っているが、一方で偏ったファンの面白さにもあると思う。当時全盛だったテキストサイトでのファンによる考察・妄想話。吉田豪さんからeメールで聞いた、杉作J太郎さんがハロプロ普及のためにカーステの音量マックスで曲をかけて都内を徘徊した話など、劇中でも描かれているように極端なファンのエピソードは本当に面白かった(面白かった で片付けちゃいけない話もたくさんあるけど)。毎日ぼーっとしてるだけで、何かをやる能力もないと思っていた僕は、ファンの方々の“好き"や"熱狂"の先にある"創造力"と"行動力"にすごく憧れを持っていた気がする。突き動かす側と突き動かされる側のステキな関係がハロプロにはあると思う。
この映画には、僕が憧れていた"創造力"と"行動力"がたくさんあって嬉しくなった。僕はいま、ハロプロと一緒にお仕事させてもらえる立場にいる。MVやジャケットレベルだけど、僕が関わっているものは、主人公・劔たちのように喜んでもらえるものになっているか? そういうのを作りたいなぁ。そんな気持ちにもなりました。
『あの頃。』
監督:今泉力哉/脚本:冨永昌敬/原作:劔樹人『あの頃。男子かしまし物語』(イースト・プレス)/出演:松坂桃李/配給:ファントム・フィルム/ハロープロジェクトに青春を捧げた男たちの物語。2月19日、全国公開。
北野 篤
きたの・あつし/1981年生まれ。博報堂ケトル所属。広告の企画や、劇中で松浦亜弥役を演じる山㟢夢羽が在籍するハロプログループ・BEYOOOOONDSのMVなども手がける。
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- Atsushi Kitano
本記事は雑誌BRUTUS933号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は933号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。