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KID FRESINO|その一言で世界線は変わると思うんです。

BRUTUSCOPE

No. 933(2021.02.15発行)
アイドルマスター
KID FRESINO

 おばあちゃんの手作りセーターを着た2歳の愛娘、ミニスカートから覗く妻の太もも、バスタブの残り湯に浮かぶ洗濯物……。ニューアルバム『20,Stop it.』のパッケージを開けると彼の「幸せな日常」があふれてくる。彼自身がフィルムカメラで撮り下ろした16枚のフォトカードがCDとともに封入されているのだ。だが音を聴きながらこれらの写真を眺めていると、どこか冷めた視線でこの世界を俯瞰する彼の姿が浮かび上がってくるから不思議だ。

「オレって客観的に見れば“幸せだろ、お前”って感じだと思うんですよ。実際、幸せなんです。信頼できるワイフがいて、前髪パッツンのかわいい娘がいて。心がすごく満たされてるなって。でも、それはアーティストとしては不幸なことだと、地がネガティブだからアンビバレントな感情を抱いてしまうんです。だから音楽の表現は幸せじゃないふりをしてしまうんですよね」

 キッド・フレシノ。ラッパーである。1993年、埼玉県生まれ。18歳の頃から活動開始。20歳の頃、ラップをやめて音楽エンジニアを目指そうとニューヨークへ渡るも、再び音楽制作に没頭。帰国後、本格的な活動を再開。バンド編成での楽曲にこだわり、同世代と作ったアルバム『ài qíng』が反響を呼ぶ。そして今年1月、アルバム『20,Stop it.』をリリース。カネコアヤノや長谷川白紙といったアーティストとコラボを重ねより進化させた作品を仕上げた。中でも英語に重心を置いたリリックはメランコリックな歌声とともに心に残る。

「そもそもオレは浅学無学。言葉に意味はないんです。受け取った人がそれぞれ無意味の意味を見出してくれたらと思ってて」

 じゃあ、タイトルの「20,Stop it.」、この無意味な言葉の意味は? と聞くと  。

「ニューヨークのハーレムで暮らし始めた頃、地元のヤツらとバスケをやったんです。一切ボールに触れず、ゲーム終盤でようやくリバウンドを取ったら、大きなヤツが“How〜”と言ったんです。何を言ったのかがわからず、Howならold are youだとベットして“20”と答えて。すると相手が“stop it”と言って大笑い。“お前、面白いこと言うなあ”って。実はこのゲーム、21点入れた人が勝ちというルールで、“How many points have you got?”って聞かれてたんです。こいつ、ボケかましてきたぞと(笑)。そのとき思ったんです。こんな一言で世界線は変わるんだなって」

『20,Stop it.』

2年ぶりのニューアルバム。カネコアヤノ、長谷川白紙、BIM、Otagiri、Campanella、JAGGLAがフィーチャリングアーティストとして、柏倉隆史、HSU、西田修大、本村拓磨らがゲストミュージシャンとして参加。toeによるリミックスも収録。

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キッド・フレシノ

1993年埼玉県生まれ。ラッパー、DJ、トラックメーカー。ヒップホップユニット〈Fla$hBackS〉の活動を経て、2013年、ソロデビュー。国内外でのライブやDJ、CM楽曲制作、ナレーションなどその活動は多岐にわたる。

photo/
Naoto Date
edit/
Katsumi Watanabe
text/
Izumi Karashima

本記事は雑誌BRUTUS933号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は933号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.933
アイドルマスター(2021.02.15発行)

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