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ようこそ、BAR BRUTUSへ。

From Editors

No. 932(2021.02.01発行)
音楽と酒。
もし自分がリスニングバーを作るなら、どのレコードをかけるか。音楽好きなら、考えるだけで、眠れなくなるはずだ。ブックインブックはピーターバラカンさんが、もし音楽のあるバーを作ったなら。イギリス時代の若きバラカン青年が、同時代に聴いた曲たちを中心に、私小説のような32のレコードストーリーを紡いでもらった。

電車の席に座っている時、目の前に立つ乗客が開く、新聞の記事をマジマジと見ることがある(彼は、内側の記事を見ている、僕は外側の記事を見ているから、盗み見とは言えないと思う)。その記事は、自分が持っている手元の新聞よりも、なぜか集中して読め、さしていうならスキャニングしているように、ものすごいスピードで頭の中に刷り込まれていく。
同じようなことは、さまざまな場面にある。最たるものが、リスニングバー。店でかかるレコードを聴きながら、店主や常連たちが話す、曲やアルバムにまつわるうんちくや思い出を盗み聞きするときだ。実体験として日々音楽に触れ合っている人たちの、話だ。すっと頭に入ってきて、とても音楽の勉強になる。

いまほど、世界中の音楽が身近な時代はない(いまさらの話で、ここで書くのも恥ずかしいけれど)。学生の頃みたいに、中古レコード屋で発掘作業したり、毎週のようにCDショップに通わなくとも、新しい、そして音楽史において知っておくべき名曲も簡単に手に入る。でも、いつも思うのは、このデータの宇宙の中には、まだまだ出会えていない曲がいっぱいあるということ。焦る。のだけれど、その焦りを解消してくれる存在が、今の僕にとってはリスニングバーというわけだ。

もちろん歴史的な背景やアーティストへの専門的な知識はなくとも、その曲、そのアルバムが好きで好きでしょーがないんだよ! っていう隣の客たちの言葉も、どんなリコメンドより、気になるものだ。

そして、家やヘッドフォンで聴く好きな音よりも、リスニングバーで聴く音楽は、知っているものも、初めてのものも、音の解像度が高い。最高の設備とレコード棚、そして酒があるのだから、当然だ。

レコードから流れる、“いま生きている音”を聴きにリスニングバーに行く。その醍醐味を紙の上で再現したのが今回の特集。音楽にうるさい客と、それを受けて立つ店主のやりとりは、読むだけで、脳内に音が鳴り響き、店内の喧騒が聞こえてくる。

レコードを聴き、酒を飲みながら語ることができる、音楽のある場所へ。取材をした店店には、彼らの店を形づくるレコードのリストアップをお願いし、brutus.jpに、BAR BRUTUS with……という、プレイリストも作った。店で聴いてから、ブルータスを読み、復習的に聴くか。それともブルータスを読みながら聴いての予習後、万全の態勢で店に行くか。どっちもオススメの楽しみ方になると思う。

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杉江宣洋(本誌担当編集)

本記事は雑誌BRUTUS932号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は932号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.932
音楽と酒。(2021.02.01発行)

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