ライフスタイル

「ホッカイロくれる人」

長井短の『優しさ告げ口委員会』

No. 932(2021.02.01発行)
音楽と酒。

どうもどうも、演劇モデルの長井短です。ずっと目標にしていた紙媒体での連載が実現してハッピーなので、ご機嫌な連載にしたいと思います。「優しさ告げ口委員会」は、長井短が出会った「なぜそんなことができるの……」とため息すら出る優しさを持った人間を告発するよ。

「ホッカイロくれる人」四部袖さん

 映像作品の季節は縦横無尽で、今が冬でも物語が夏ならどれだけ寒くても半袖を着る。人間だから普通に寒い。そんな時、私たちを支えてくれるのは衣装さんだ。その現場の衣装さんは四分袖さんという女性で、なんでこんな名前で呼ぶかっていうと、四分袖さんは寒さへのせめてもの抵抗として半袖衣装の中に四分袖シャツを紛れ込ませてくれるから。「ちょっとでもあった方が良いのが袖」って私にそっと耳打ちしながら衣装合わせに臨む四分袖さんに秒で心を掴まれた。正直に言うと、冬は半袖だろうが四部袖だろうが寒い。そんなことはきっと四部袖さんもわかっていて、それでも四部袖を紛れ込ませてくれるのは「私はあなたが寒いことわかってるから安心してね」ってメッセージだ。思いやりはこれで終わらない。特別に寒い早朝のロケ。凍えながらのリハーサルを終えて四部袖さんの手渡してくれたダウンを着る。悴んだ手を少しでも温めようとポッケの中に手を入れると、そこにコタツがあった。驚いて中を確認すると、ポッケの中にホッカイロがくっついている。しかも2枚。体側と外側に1枚ずつくっ付いている。これは発明だ。ポッケの中にホッカイロが入っているだけでも十分嬉しいのだけど、そのホッカイロを手で握りしめるとどうしても手の甲は冷たいままなのだ。しかし、四部袖さんのこの方法はどうだろう。握らなくても、ただポッケに手を突っ込んでいるだけで両面きっちり温まる。なぜ、ホッカイロが入ってるだけでは手が温まりきらないことを知っているんだろう。それはたぶん、四部袖さんが実験をしてくれたからだ。私たちの寒さを想像してくれるだけで十分なのに、より強固な優しさのためにわざわざホッカイロポッケを研究してくれたのだ。これじゃ手の甲が冷たいなとか、これじゃ位置が悪いなとか、小さな違いをその都度確認してたどり着いたのがこのコタツポッケ……尊すぎる。想像通りの優しさも嬉しいけれど、実験の果てにある想像以上の優しさは、爆発みたいに私を包む。それは心が温まるにとどまらなくて、もう少し世界を好きになろうかなって勇気になる。私も勇気を生める発明家を目指すね四部袖さん。

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ながい・みじか

1993年生まれの演劇モデル。文筆家としても活動、初の著書『内緒にしといて』(晶文社)がある。夫・亀島一徳との交換日記をnoteに公開している。

文・イラスト/
長井短

本記事は雑誌BRUTUS932号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は932号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.932
音楽と酒。(2021.02.01発行)

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