アート

100〜250年前の服を研究する「衣服標本家」が語る、美しき標本の世界。|長谷川彰良『半・分解展2021東京』

BRUTUSCOPE

No. 932(2021.02.01発行)
音楽と酒。
フランス革命の少し前、1770年頃に作られたアビ・ア・ラ・フランセーズ。貴族の日常服として用いられたロココ調のコートは、袖のカーブや裾に使われる布の量、シルクの質や細工にも目をみはる。
こちらは100年後。普仏戦争の時代に着用され、ユサールと呼ばれたフランスの軍服。

分解された服が放つ、不可思議な魅力って?

服を分解して遊んでいた少年は100年前の消防服に出会い「衣服標本家」になった。『半・分解展』開催を控えた長谷川彰良さんに聞く服の話。

「小学校低学年の時に工業用ミシンが家にやってきました。下着以外の服ならなんでも作ってしまうような父の横で、僕もオモチャのような感覚でミシンを使って服を縫うようになりました。自分で型紙を起こすようになったのは、3、4年生の頃、誕生日に家庭用ミシンを買ってもらったあとのことです。裏地とファスナーがついたボストンバッグを作ったのが最初でした。高校卒業後は服飾の専門学校に通っていたのですが、ある日、古着屋で100年前のフランスの消防服に出会った。ゴワゴワと歪んでなんともいえない違和感と存在感を放つその服は、粗野なのにとてつもなく美しくて、目を離すことができなかった。この服の美しさは何なのか? それを知りたくてすぐに購入し、袖を通してもわからないのでハサミを入れ、内部構造を見てやっと納得がいきました。すべて手縫いで、今でいうオーダースーツのようにして作られていたんです」

ーそこから古い服に興味を持つように?

「当時は紳士服のパターンとデザインを学んでいて、卒業後はモデリストとしてアパレルブランドで働いていたのですが、100年前の消防服が与えてくれた衝撃と感動を今に伝えたい、これこそ自分が進むべき道だ、というのはあの瞬間決まったように思えます。僕が知りたいのは服の表層的な美しさではなくて、縫い目や芯の使い方、構造を分析して浮かび上がってくるもの。博物館のガラスの向こうに飾られているだけではわからない、その服が持つ本質的な魅力と、それが着られていた時代の服の持つ意味や体の動きまで含めた着心地というものを伝えたい。そんな気持ちで独立を決めました。服作りをする技術者と違うのは、研究結果を新しい服に昇華するのではなく、過程をそのまま伝えたいという思い。だから服を2つに分けて、半分はそのまま、半分は分解して展示します。そんなわけで”衣服標本家”という肩書を名乗るようになりました」

ー具体的にはどんな服が対象になりますか?

「”自分が着る服”というのが出発点にあるので、基本的には紳士服ですね。フランス革命の前後から第一次世界大戦頃のフランス。次いでイギリスとアメリカのものがメインですが、必要に応じて第二次世界大戦頃まで範囲を広げることもあります。消防服やハンティングジャケットなど、ワーカーのための服から興味を持ったんですが、構造的なところでいうと、貴族の服や軍服の作りはとにかく別格。今一番興味を持っているのはフランス革命の頃の貴族の服で、例えばこれ、アビ・ア・ラ・フランセーズ(写真上)というんですが、木の土台を銀糸と麻で織って包んだボタンを見ても、どれだけ時間と労力がかかっているんだという作りです。ベルベット状にしたシルクをパンチングで装飾して裾には3mもの布を使った豪華さです。ロココの時代、貴族たちは頭に小麦粉をはたいていたのでシルクの生地と相まって虫に食われやすく、綺麗な状態で残っているものは多くありません。という具合に、服飾技術に加えて当時の生活様式や風俗についても調べ、文献に当たりながら研究を進めていきます」

ー古い服の着心地はどう伝えるんですか?

「同型に仕立てたサンプルを展示会場に置いています。たくさんの人が実際に袖を通して驚いたり喜んだり、同じものを作ってくれと注文が入ることも少なくありません。2月に予定していた展覧会は延期になってしまいましたが、4月に渋谷で『半・分解展2021東京』を開催する予定です。僕も毎日在廊するので、ぜひ、服の話をしに来てください」

『半・分解展2021東京』

4月13日~26日〈大和田ギャラリー〉で開催予定。●東京都渋谷区桜丘町23−21 渋谷区文化総合センター大和田2F。13時〜21時(4月13日17時〜、26日〜18時)。
sites.google.com/view/demi-deconstruction/

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長谷川彰良
はせがわ・あきら/1989年生まれ。アパレル企業勤務を経て2016年に独立。以降、日本各地で『半・分解展』を開催。HPのほかTwitterアカウント@rrr00129でも情報を発信。

photo/
Tomo Ishiwatari (portrait)
text/
Hikari Torisawa

本記事は雑誌BRUTUS932号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は932号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.932
音楽と酒。(2021.02.01発行)

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