〈カフェ 中野屋〉で、見たこともないようなアートなパフェを次々考案。今日のパフェブームの火つけ役となった森郁磨さんが、一昨年12月、大人のためのグラスデザート専門店を構えた。店内には自ら集めた作家ものや、アンティークの器が並ぶ。プリン・ア・ラ・モードに選んだのは、「ずっと使いたかった」という黒みがかった細身のグラス。そこにアシンメトリーにパーツを配した。
「登場した当時は、きっとモダンで最先端のメニューだったはず。それを、いまの時代のア・ラ・モード=最先端にしたら、と発想しました」
主役は、グラスにのったカスタードベースの黒ゴマプリン。そこに添えたのは、琥珀糖のチェリー。エディブルフラワーが咲くのは、卵黄と日本酒で作った温かいカスタード(サバイヨン)ソースだ。下には、純喫茶のメニューを意識したというコーヒーゼリーや、あえての缶詰フルーツが入り、食べ進むと、どこか懐かしい味にも出会える。
森さんがカスタードと聞いて思い出すのは、〈ホテルニューオータニ〉にいた駆け出しの頃のこと。
「来る日も来る日もカスタードを炊いていました。失敗すれば、炊き直しの苦い思い出しかありません。でも、当時、ホテルのパティスリー〈SATSUKI〉にあった黒ゴマのシュークリームは、おいしかったなぁ」
最先端の中に、懐かしい思い出も映したグラスデザートが完成した。
- photo/Atsushi Kondo text/Yuko Saito
本記事は雑誌BRUTUS931号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は931号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。