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人生を振り返ると、「天地人」の言葉を思い出します。|川平朝清(最終回/全五回)

TOKYO 80s

No. 931(2021.01.12発行)
なにしろカスタード好きなもので。

 その後、沖縄のラジオ局は乱立状況になりました。“public interest, convenience, and necessity”。私がアメリカの大学で学んだ放送の基本思想は「受け手側(視聴者)の立場で考える」ことでした。日本の放送網の場合はどちらかと言うと、送り手側がどうあるべきかという制度になっていますよね。私がNHKのアナウンサー養成所に通った頃は、日本の放送法、つまり当時のNHKの使命は「あまねく日本全国に」と、「あまねく」という言葉が強調されていました。今では視聴者の意向を非常に尊重するようになったと言われますが、当時から私の放送に対する運営・経営の基本は「受け手側の立場で考える」ことでした。現代ではSNSも発達し、放送のあるべき姿も変わってきています。送り手と受け手の境界がなくなってきたからこそ、多くの人たちの便宜性や必要性にどう応えていくのか、放送の責任はますます大きくなっていくと思います。そして個人でも自分の意見をいつでも述べられる。情報にアクセスできる状況であれば、判断力と言いますかね、そういう意味での個々の責任も大きくなっていくでしょうね。私ももっと勉強していこうと思っています。人生を振り返ると、「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」という言葉を思い出します。「天地人」ですね。これを、私は「地の利は人の恩に如かず」と言ってるんですが。私の場合も、戦争中に軍隊に行き、敗戦で生まれ故郷である台湾を去り……。色々な天の時がありましたが、その時々の場所からたくさんのチャンスを与えられました。戦後の荒廃した沖縄に行かなければ、ラジオ放送を一から始めることはできなかった。これは兄のおかげでもあります。沖縄という地の利だけでなく、人の和からの恩恵も与えられた。私にとっては台湾、沖縄、そして日本、アメリカ、4つの場所がありましたが、その時、その土地において人々から受けた大きな恩義というものがあったと感じますね。ですから、それに応えるために私にできることは何か、この年になっても考えるんですよ。恩返しと言っても恩を受けた方々は、たいてい亡くなっていらっしゃるので、恩送りと言うんですかね。これまでに受けた恩を次の世代の人たちに送っていく、という。次の世代の人たちのためにいったい何ができるのかを考えていきたいと、そう思っています。(了)

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川平朝清

1927年生まれ。沖縄放送協会初代会長。元NHK経営主幹。昭和女子大学名誉教授。

PHOTO/SHINGO WAKAGI TEXT/KUNICHI NOMURA EDIT/HITOSHI MATSUO, TOSHIYA MURAOKA

本記事は雑誌BRUTUS931号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は931号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.931
なにしろカスタード好きなもので。(2021.01.12発行)

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