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【1月29日〜公開】坂元裕二が純粋なラブストーリーを書く理由。|『花束みたいな恋をした』

BRUTUSCOPE

No. 931(2021.01.12発行)
なにしろカスタード好きなもので。
坂元裕二

菅田将暉と有村架純が主演する映画『花束みたいな恋をした』は脚本家・坂元裕二作のラブストーリー。実は、坂元さんが映画の脚本をオリジナル作品として書き下ろしたのはこれが初。彼が語ったその理由とは。



 基本的に、ラブストーリーを作りたいんです。それがいちばん楽しいし、それだけを書いていたいんです。出自もそうですから。でも、単なるラブストーリーというだけでは企画が通らない。通すための強い物語を持たせないといけなくなって、恋愛の本質からどんどん遠くなっていく。シンプルな恋愛要素だけの話を書ける機会があればとずっと思っていたんです。難病ものでもなく、貧富の差でもなく、少女漫画的な要素もない、リアルな恋愛映画を作りたい。それが発端です。

 ごく普通の20代の男女が21歳で出会って26歳で別れるまでを日記のように描きました。ほぼ2人しか出てこないし、第三者が入ってきて2人の関係をかき乱すこともありません。実際の恋愛もそうですよね。劇的な三角関係ってそんなに起こることではないし、大学を出て就職して、社会とうまく折り合いをつけようとした2人の関係を描く。それだけで面白くなるはずだと思いました。

 2人の会話に固有名詞がたくさん出てくるのも日常の話だから。恋人同士が日常で、劇的な会話や議論はしませんよね。下高井戸シネマで何を観たとか、今村夏子のどの小説が良かったとか、そういう固有名詞の話をしますよね。ピックアップしたのはもちろん主人公たちの好みで、自分のものではありません。

自分の趣味は脚本に入れない。

 2015年から2020年までの話なので、その年にどんなことがあったのかを調べ、書き出して年表にしました。知らない人のインスタを参考にしたりもしましたね。そこから選ぶのは僕ですから多少は恣意的にはなるんですが、自分の好みは基本的に入れません。作り手の趣味が入り込むと登場人物の描き方がブレるし、観客も観ていて冷めますよね。ただ、押井守監督を見かけた話だけは実際の体験です。中目黒の商店街で偶然。周囲は誰も気づいてなくて、僕だけが気づいて、何か不思議な気分になったことがあったんです。

 タイトルは撮影に入る直前に決めました。だいたいいつも決まらないんです。つけたくなくて悩んでしまう。『カルテット』とか『Mother』とかシンプルなものは先に決まるんですが、最後まで決まらないことがほとんど。できればつけたくないですね。

 新たなラブストーリーを書くとするなら、10代の恋愛は書いたことがないので挑戦してみたいです。発注があれば。発注があるから書くのであって、いくらラブストーリーが好きでも自主的に書いたりはしません。死後に変な日記が出てくる感じで見つかったら恥ずかしいじゃないですか(笑)。

©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

『花束みたいな恋をした』

東京・明大前駅で終電を逃してしまったことから偶然に出会った大学生の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。好きな音楽や映画や本がほぼ同じで、あっという間に恋に落ちた2人は、大学を卒業しフリーターをしながら同棲を開始。就職をすれば生活も安定し、もっとたくさん一緒にいられると思っていた。しかし、なぜか気持ちは少しずつすれ違っていく  。監督はドラマ『カルテット』と同じ土井裕泰。1月29日から全国公開。

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さかもと・ゆうじ

1967年大阪府生まれ。19歳で脚本家デビュー。その後、『同・級・生』『東京ラブストーリー』『二十歳の約束』などの連続ドラマを手がける。近作に『Mother』『anone』『最高の離婚』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』『カルテット』など。

photo/
Masumi Ishida
text/
Izumi Karashima

本記事は雑誌BRUTUS931号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は931号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.931
なにしろカスタード好きなもので。(2021.01.12発行)

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