エンターテインメント

過去と現在を短歌で結びつける。

東 直子 ●歌人 山田 航 ●歌人 山階 基 ●歌人

No. 930(2020.12.15発行)
世の中が変わるときに読む本。

百人一首が、当時の人の暮らしや感情を記録して後世に伝えたように、短歌はメディアの役割を併せ持つ。時代が変化する今、歌人はどんな歌を選び、どんな返歌を詠むのか。4つのテーマで過去の歌を選び、それぞれに返歌を作る歌会を開いてもらいました。BRUTUS.jpでは"恋""旅"の2テーマをどうぞ。

山田航
まずは“恋”から。万葉集の時代って、臆面もないくらいストレートな恋の歌が多いですよね。現代だとアイドルの歌に近いと思います。なので返歌では、一点突破でストレートな形式で作ってみました。
東直子
当時は天然痘が流行していて、平均寿命は30代くらい。だから命や病、恋に対する体感も、現代人のそれとはまるで違うはずですよね。告白代わりに短歌を贈るなんて今はなかなかできないですけど、当時は必然的だったと改めて思いました。山田さんの返歌は、古典のストレートな表現をもう一度再評価する構成で新しい歌を作られていて、ヒマワリの固定的なイメージを裏切った使い方がうまいですね。

タブーも超える想像力。

山階基
”が一番難しいテーマでした。って何だろうと考えてみると、日帰りでも行というけど、じゃあ新宿池袋間の移動はなのか? とか。でも「帰る」ということがカギだと思いました。つまり普段の自分の居場所ではないところに持っていかれるような経験だろうと。なので、平日の昼間に家に帰ったら家族が誰もいなくて、普段とは違う知らない場所のように感じた、という島田幸典さんの歌を選びました。
確かに難しいですね。でも“まるでをしたような気持ち”という感覚ならわかるなあと思って、私は岡井隆さんの歌を選びました。もし私が母親の原野のような内面世界に入り込めたとしても、鉛の兵みたいな重たい存在にしかなれないという歌です。返歌では、母親になり代わって応えるような形で作りました。
山階
東さんの返歌の「原野の底の赤き地下水」は、親と自分の体に同じ血が流れていることや、赤が血の、鉄の色なので、本歌の鉛という金属のイメージと響き合うように感じました。
山田
僕は、非常に壮大なの歌を選びました。というのも、以前、国立天文台の先生が「万葉集には星の歌がほとんどない」とおっしゃっていて。星は死者の魂と考えられていて縁起が悪いと疎まれたとか。そんな中で星を詠む数少ない歌人が人麻呂なんですよね。人麻呂がこの歌を作ったことで、古代でも日本語の想像力の幅が急激に広がった部分はあるんじゃないかな。
人麻呂は今読むと新鮮さがありますね。宮沢賢治が銀河鉄道という言葉を生み出したことによって、そのイメージが刻まれたように、例えば今みんなマスクをして歩いてますけど、普段あまりマスクをしてなかった時代の感覚にはもう戻れない。今時代が大きく変わっていく中で、自分の感覚を短歌で刻むことによって、失っていく言葉で踏みとどめることはできるのかなと思います。
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Naoko Higashi

1963年広島県生まれ。96年『草かんむりの訪問者』で第7回歌壇賞を受賞、2006年長崎くんの指』で小説家デビュー。16年『いとの森の家』で第31回坪田譲治文学賞を受賞。

Wataru Yamada

1983年北海道生まれ。2009年『夏の曲馬団』で角川短歌賞、『樹木を詠むという思想』で現代短歌評論賞を受賞。12年の『さよならバグ・チルドレン』で現代歌人協会賞を受賞。

Motoi Yamashina

1991年広島県生まれ。早稲田短歌会・未来短歌会出身。2016年度未来賞受賞。東京・西日暮里〈屋上〉にて歌会イベント『屋上と短歌』を主催。19年、歌集『風にあたる』(短歌研究社)を刊行。

text/Toko Suzuki

本記事は雑誌BRUTUS930号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は930号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.930
世の中が変わるときに読む本。(2020.12.15発行)

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