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わたしのこと すき? はい いいえ(『MOTHER』より)

『MOTHER』の特別なことば。

No. 930(2020.12.15発行)
世の中が変わるときに読む本。

こんな恋の表現はゲームでしかできないんだよ。

 自分がゲームをつくる意味、という文脈で、しばしば糸井重里が例に挙げる場面があります。それは、1作目の『MOTHER』の終盤、ホーリーローリーマウンテンの山小屋でのこと。

 ゲームの終わりが近いこともあり、付近の敵はかなり強く、主人公たちは瀕死の状態でこの小屋にたどりつきます。つかの間の休息。そこで、主人公の少年はともに戦ってきた女の子と不意にふたりきりになります。

 唐突に、恋の場面が訪れます。少年と少女はふたりでダンスします。

 といってもファミコンという8ビットのゲーム機ですから、絵も音楽も本当に質素です。たとえば上に掲載したゲーム画面をいま見ても冗談のようにしか思えないでしょう。しかし、当時のプレーヤーは……いいえ、きっと、いま本気で『MOTHER』をプレーしたらどんなプレーヤーも、この粗いドット絵が甘くて切ない恋の場面に感じられるのです。

 チープだけれどとびきり甘美なふたりのダンス。それが終わると女の子が言います。

「わたしのこと すき?」

 こんな恋の表現はゲームでしかできないんだよ、と糸井重里は言います。ゲームだからこそ、唐突なダンスのあとに女の子はそう問いかけることができる。しかも、これはゲームですから糸井はそのあとにこんな「選択肢」を置くのです。

「わたしのこと すき?
  はい  いいえ」

 ああ、こういうとき、なんて答えればいいんですか? 『MOTHER』がことばのゲームだというのは、こういうことです。今回で連載は終わりです。すべてのことばはぜひ下の本で!

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『MOTHER』シリーズ全3作のことばをすべて集めた本『MOTHERのことば。』12月14日ほぼ日ストア、25日書店発売。https://www.1101.com/mother_project/index.html

文/
永田泰大(ほぼ日)

本記事は雑誌BRUTUS930号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は930号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.930
世の中が変わるときに読む本。(2020.12.15発行)

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