エンターテインメント

〈悪魔〉ラヴェイが愛したノワール小説。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 929(2020.12.01発行)
餃子♡愛

 ブルータス927号の映画特集でロマン・ポランスキー『ローズマリーの赤ちゃん』に触れたが、あの作品で〈悪魔〉を演じていたのが、サンフランシスコで悪魔教会を主宰するアントン・ラヴェイだ。ラヴェイは〈悪魔儀式〉を商業化し、頭部をそり上げた魁偉な、しかしセックス・アピール抜群の風貌によって、多くのファンを持っていた。彼のところで一時期、魔女やいけにえ役をするアシスタントとして働いていたのがスーザン・アトキンスで、彼女こそが、シャロン・テイト殺害の実行犯である。どこか運命的な不穏の連鎖だ。

〈悪魔〉ラヴェイが最愛の小説として挙げるのが、ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの『ナイトメア・アリー 悪夢小路』(矢口誠訳/扶桑社ミステリー)だ。サーカスのサイドショーの見世物世界から、奇術でもってのしあがり、あることから転落する小説であるが、同じくサーカスの世界出身で、一種の奇術として〈悪魔〉を扱ったラヴェイにしてみれば、まさにわがことのように、本書を愛しただろう。愛しすぎて、登場人物のスタンとジーナを自分の子供の名前としたほどである。完成するまで、なんともいえないが、映画化を発表したギレルモ・デル・トロ監督に感謝しなくてはならない。それがなければ、邦訳されることはなかっただろう。

 原作の刊行は1946年、いきなり、美男スター、タイロン・パワーが自身のイメージ転換として〈汚れ役〉を選択、その題材に選ばれたのが、グレシャムの小説だった。名声と失墜というショー・ビジネス・ノワールはいまでもノワール・ベストにいつも顔を出す名品となった。

 映画はさすがに〈吊るされた男〉は主人公の運命予告としてしか登場しないが、原作の構成は手がこんでいて、すべての章の冒頭にはタロットの図版が置かれている。おびただしいタロットのなかで用いられたのは、リリース以降、英語圏でもっとも広く流通する〈ライダー・ウエイト・パック〉である。英国ドラマなどで、タロットが登場する場合、ほとんどがこれだ。図を描いた女性画家パメラ・コールマン・スミスの優美な図柄ゆえの人気といっていい。

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たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS929号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は929号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.929
餃子♡愛(2020.12.01発行)

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