エンターテインメント

青葉市子と小林光大が、南の島で紡いだ物語。

BRUTUSCOPE

No. 929(2020.12.01発行)
餃子♡愛
ようやく寒くなってきた11月の東京で撮影。

連載中の「Choe」から続く、新作『アダンの風』の制作風景を振り返る。

青葉市子が新作『アダンの風』を発表する。架空の映画のためのサウンドトラックを一つのコンセプトとし、沖縄や奄美大島などでインスピレーションを得た楽曲が並ぶ。今作は雑誌『アンド プレミアム』のウェブサイトで連載中の「Choe」で、さまざまな土地を共に旅する写真家・小林光大との作業からも創作源を得たという。今回は、植物が力強く生きる表参道〈eatrip soil〉の畑で、2人にフォトセッションと対話を試みてもらった。

小林光大
最初はSweet Williamと青葉市子「からかひ と あまねき」(2019年)のジャケットとフォトブックを撮影させていただいて。
青葉市子
それがきっかけで1月に雑誌『ユリイカ』の巻頭撮影をお願いしたのと、創作の構想も兼ねて沖縄に長期滞在していました。もともと撮影されることに苦手意識がありましたが、小林さんと撮影が進むにつれ、深いところで創作の種のようなものを感じて。企画書を作成してマガジンハウスさんに持ち込みました。ありがたいことに連載をさせていただけることになりました。
小林
連載タイトルは、お互いに海の生物に関心があったことによって導かれたのかな。
青葉
その頃、ちょうどクジラにまつわることがお互いの身の回りに多く存在していました。クジラはエコロケーションという、うたのような交信によってコミュニケーションをとる生き物なのですが、小林さんとは多くを語らずとも、そこに写真機があって、うたがあって、それだけで十分な交信ができることがクジラたちのエコロケーションに近いのではないかと感じて。
小林
まるで言葉遊びのようにエコーと繰り返し声に出すうちに「Choe」になりました。『アダンの風』には作り手で共有していたプロット(物語)があって、設定は南の島が舞台ですよね。
青葉
はい。ここではざっくりとした説明になってしまいますが、やがて絶えゆく近親交配の集落に生まれた少女が、種族の血を絶やさぬよう、混交の期待を込められ、二度と戻れぬ島へと島流しに遭い、その島で言語を持たないクリーチャーたちと出会う物語。クリーチャーは、ぴかぴか、きらきら、心の真ん中にそっと棲んでいる、子供の時から変わらない、煌めきのような存在。
小林
うんうん。その煌めきたちは、今年いろいろなことがあって、街が静かになったり部屋に長く閉じこもったりしたことで、今まで以上に開かれた感覚ともいえるよね。
青葉
本当の島やクリーチャーたちは、それぞれの心の中に存在しています。そして、その島々は、目には見えないところでつながっている。南の島、と言いましたが、それは一つの象徴で、本当の舞台は目には見えないけれど、最も私たちに近く、心の奥に存在している煌めきです。今年は大変だったけれど、静かになったあの時期に、人々の隙間に心地よいそよ風が吹き、風通しが良くなったこともあった。風が吹き続けることの大切さを学んだ。ごつごつした強く激しいアダンのイメージに風を授け、『アダンの風』というアルバムタイトルが生まれました。
小林
今の世の中に限らず、いつか楽曲を聴いた人たちが、そこにアクセスできる、誘発させる力みたいなものが作品に宿っていると思う。僕は前に青葉さんが話してくれた「なぜプランクトンが発光し始めたのか」という話が面白くて。
青葉
自己流の解釈なので正確ではないかもしれませんが、光るのは「私はここにいるよ」というサインだそうです。存在証明であり、求愛でもある。ほかの存在を求めることで、自分が孤独だとわかる。孤独を知って光るなんて。小さくて美しい存在で、私たち人間の最初の姿。体の中に小さなプランクトンたちがたくさんいて、心の中でなにかを感じ取っては発光する。怒ったり、泣いたりしながら。プランクトンの最初の発光が今作すべての曲につながっているんです。

『アダンの風』

作編曲の共同制作者に梅林太郎を迎え、室内楽編成を取り入れた濃密なサウンドスケープが、聴き手を物語の深部へといざなう。活動10周年を迎えた青葉市子のこれまでとこれからをつなぐ、あらゆる命へ捧げるラブレター。

天候さえも味方した⁉ 南の島の思い出。

『アダンの風』のブックレットには、南の島々で撮り下ろした写真を掲載。小林光大はジャケット写真のほか、ブックレットの写真もすべて撮影している。アダンの実を宙に投げて遊ぶ写真(①)、台風「ハグピート」が去った後に捉えた朝焼けの写真(②)など、日常では目にすることのない奇跡のような景色の中で撮影された。

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

あおば・いちこ

音楽家。歌とクラシックギターの弾き語り。2010年のアルバム発表から今年、活動10周年を迎え、自主レーベル〈hermine〉を設立。

こばやし・こうだい

新潟県生まれ。写真家。今作『アダンの風』のアートディレクションのほかにも、公開中のMV「Porcelain」の監督を担当している。

photo/
Kodai Kobayashi
text/
Katsumi Watanabe

本記事は雑誌BRUTUS929号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は929号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.929
餃子♡愛(2020.12.01発行)

関連記事