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真っすぐに見つめる、故郷の今と男の生き方。|佐藤快磨監督『泣く子はいねぇが』

BRUTUSCOPE

No. 929(2020.12.01発行)
餃子♡愛
佐藤快磨

 冷静でいて、しなやか。佐藤快磨監督には、そんな表現がよく似合う。例えばそれは、彼が映画を撮るうえで面白いと感じている部分にも表れている。

「役者のセリフ回し一つで、シーンがガラリと変わるところが面白いですね。人は単純な喜怒哀楽だけで言葉を発するわけではなく、複数の感情が複雑に絡み合ったままに気持ちを声に表すこともある。だから脚本を書く時も、セリフの量や意味に余白を残すことを意識しています。曖昧な状態のままを役者たちに渡して演じてもらうことで、現場で物語の輪郭を広げていくような感覚。今作の役者陣は、それを面白がってくれましたね」

 その今作とは、佐藤監督の劇場長編デビュー作となった『泣く子はいねぇが』。若くして父親になるも、親として、大人としての自覚を持てずに逃げ出した仲野太賀演じる主人公が、過去の過ちと向き合いながら再生へと奮闘する物語だ。舞台は伝統行事「男鹿のナマハゲ」で有名な秋田県の男鹿。取材に際して、佐藤監督にとって故郷でもある秋田にたびたび足を運んだことで、改めて感じたことがあった。

「東京に越して10年以上が経つ今も、秋田はやっぱり大切な場所です。でも年々人は減っているし、幼い頃に見ていた景色がなくなったり、伝統的な文化も廃れていったりする一方。今回改めて秋田と向き合ったことで、故郷に対しての愛情を再認識すると同時に、喪失感と無力感を抱きました。だからこそ作品の中でも、“男鹿のナマハゲ”をモチーフとして大切に描きながらも、この文化が向き合う現実の厳しさを問題として提示したいと思いました」

 自らの故郷をもやはり冷静に見つめ、一人の男の成長と重ね合わせて見事なリアリティで描き切った佐藤監督。その俯瞰性のルーツには、「憧れている」と話す山下敦弘監督からの影響もあるのかもしれない。

「山下監督の作品には愛すべき滑稽な人たちが出てきますよね。切実だけど、一歩引いて描いていてどこか笑える。それって観る側の記憶にもはね返ってきて、忘れてしまいたいダメな思い出も肯定してもらえた気持ちになるんですよね。初めて観た時、これが映画なのかと憧れました。あと、山下監督の映画ってどれもラストシーンが素晴らしいんですよね」

 そう言う佐藤監督自身が撮ったラストシーンのすごみにだって、感服だ。

©2020「泣く子はいねぇが」 製作委員会

『泣く子はいねぇが』

監督・脚本・編集:佐藤快磨/企画:是枝裕和/音楽:折坂悠太/出演:仲野太賀、吉岡里帆ほか/秋田・男鹿半島の伝統文化「ナマハゲ」から“父親としての責任”“人としての道徳”というテーマを見出した青春グラフィティ作品。全国公開中。

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さとう・たくま

1989年秋田県生まれ。2014年に『ガンバレとかうるせぇ』で長編デビュー。国内外の様々な映画祭で高く評価される。商業映画デビュー作となった『泣く子はいねぇが』は構想から約5年もの歳月をかけて脚本を完成させた。

photo/
Wakana Baba
text/
Emi Fukushima

本記事は雑誌BRUTUS929号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は929号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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