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てらさわホーク × 宇野維正|最高で最低なヒーロードラマ『ザ・ボーイズ』を観ろ!

BRUTUSCOPE

No. 928(2020.11.16発行)
物語る、日用品。
本作で最低の限りを尽くすヒーローたち。ホームランダー(写真中央)以外にも、Aトレイン(写真右端)は時速1,000マイル以上で走れる能力者でドラッグでラリって一般人を殺害。ディープ(写真左端)はスターライト(写真右から3番目)が加入した当初に性的非道を行った(が、後に#MeTooに巻き込まれる)。 |『ザ・ボーイズ』シーズン1&2は、Amazon Prime Videoにて独占配信中。
てらさわホーク(左) 宇野維正(右)

アメリカ社会の闇を映したバイオレンス復讐劇の魅力とは。

正義のスーパーヒーローたちが裏では、殺人、ドラッグ乱用などの非道を尽くす。そんなディストピアの世界で被害者たちが結託し、復讐するドラマシリーズ『ザ・ボーイズ』。先日配信されたシーズン2も話題となった本作を、映画評論家のてらさわホーク&映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が語る!

宇野維正
今年はコロナで映画が止まって、『ワンダーウーマン 1984』も『ブラック・ウィドウ』も公開日が飛んだじゃないですか。去年まではアメコミヒーロー映画がたくさん公開していて楽しかったけど。
てらさわホーク
『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ジョーカー』……2019年だけで10作品も公開されましたからね。
宇野
しかも、内容的にも興行的にもほぼコケない。そんなアメコミヒーロー映画全盛期において、『ザ・ボーイズ』は解毒剤として有効だったというか。カウンターとしてヒーローが悪く描かれている作品に、爽快感があった。でも、ハリウッド映画が止まってしまった中で観ると、シーズン2は解毒する必要がないのに解毒だけされちゃうみたいで、心のやり場がない(笑)。特に2ではやたらグロいシーンが増えてるし。
てらさわ
真っ当なヒーロー映画が不在の中で。
宇野
でも、今回も評判いいですね。ミュージシャンにもファンが多くて。綾小路翔さんもめっちゃ好きと言ってました。ヒーロー集団・セブンはエゴイストが集まって一つの企業体として動いていて、一方のザ・ボーイズはうだつが上がらないインディーバンドみたいな感じじゃないですか。その構図が売れてるバンドと売れてないバンドの戦いみたいだなと観ていて思いました。
てらさわ
あまりにロクでもないセブンに注目しがちですけど、タイトルは『ザ・ボーイズ』なんですよね。そういえばこれは力を持たず地べたを這い回っている人たちが、超人に立ち向かう話だったなと。
宇野
つい忘れちゃいますよね(笑)。シーズン2ではセブンのリーダーのホームランダーがほぼ主役でしたよね。
てらさわ
ホームランダーは完全なるクズじゃないですか。しかしシーズン2まで付き合っていると、これがだんだんかわいくなってきてしまう。この際気の毒にさえ思えてくるので、いけないなと思いながらもつい感情移入してしまいますね。
宇野
そういう作りをしてますよね。
てらさわ
原作コミックでも、いけ好かないマッチョな白人でしたけど、ドラマ化においてはドナルド・トランプ成分がかなり入っていますね。
宇野
ホームランダーをトランプに見立てて、トランプみたいな人間がいかに害悪かを周知させるという意味合いはもちろんあるんだけど、ただ、ホームランダーを見ていると共感しちゃう部分がないわけじゃないところが非常に巧妙にできている。フィクションはこれくらい巧妙であるべきですけど、それが怖くもある。
てらさわ
シーズン2では強烈な女性ヒーロー、ストームフロントが登場して、だんだんホームランダーの立場がなくなってきます。ぐむむ……という表情をすることが多くなって、最後には一人ビルの屋上で目からビーム出しながら……という(笑)。あれには爆笑した。
宇野
ドッペルゲンガーがホームランダーに化けて、ホームランダーが自分と……というファックシーンがありましたけど、強烈でしたね。自己愛性パーソナリティ障害をビジュアル化するとああいうことになる。
てらさわ
しかしホームランダーをはじめとするセブンの人たちは、なんのためにヒーロー稼業をやっているんでしょうね。世のため人のため、正義のためではないじゃないですか。
宇野
アメリカ人価値観だと、フェイムというのが一番大きいんじゃないですか。
てらさわ
超人というステータスこそが重要なんだと。
宇野
滑稽なのは、シーズン1でセブンから外れたディープが、某科学系宗教みたいな団体に入ったりして、一昔前のAKBの神7に入れない女の子みたいにもがいてる姿を執拗に描くじゃないですか。選抜メンバーかどうかというのがすべての価値観の中心にある。名誉欲と自己愛が大きなテーマですよね。
てらさわ
劇中、ストームフロントがナチスドイツとの関わりを暴露されますね。そこで潮目が変わって、世間から叩かれて失脚するでしょう。しかしいま、現実の偉い人がナチやKKKと関係があると暴露されたとしても、そういう展開になるか。
宇野
トランプは親父がKKKの関係者だったという噂が普通に表に出てるけどなんのダメージもないですからね。
てらさわ
それでプラウド・ボーイズ(アメリカの極右団体)に「スタンバイせよ」なんて言っているわけだから。人種差別が悪いものだという認識が彼らにはないわけで。でも、『ザ・ボーイズ』の中では正常な価値観が描かれている。わりと真面目なシリーズなんだなと。「正義もなにもあったもんじゃないよね」とひっくり返ったブラックジョークみたいな話だけど、最後の最後で真っ当なところに着地したな、と胸を撫で下ろしたところもあります。
宇野
原作者のガース・エニスがイギリス人と知って、なるほどなと。『ウォッチメン』のアラン・ムーアもイギリス人じゃないですか。アメコミの世界でアメリカを風刺するのは外側の人という。アメリカ人には持ち得ない客観性と批評性があるんだろうなという気はします。
てらさわ
その系譜はありますね。スーパーマンは「真実と正義と、アメリカン・ウェイのために」戦うヒーローですが、イギリス人からすると「アメリカン・ウェイ」に疑問を持つところもあるでしょうし。
宇野
あと、シーズン1も2も最後の最後にドカンという引きを用意して次への関心をつないで、そのうえでちゃんと次のシーズンの撮影に入るというのは、好調ということだし、ファンフレンドリーに作っているんだなとも思います。
てらさわ
なんならシーズン2で終わってもいいくらい、わりとスッキリしますからね。もっといやらしい引っ張り方で終わってもいいはずなのに、逆に自信があるのかなという気もします。
宇野
完結させたうえで次へのどんでん返しを入れている。
てらさわ
色々言いながらも次のシーズンが気になってしまいますね。原作ではザ・ボーイズ側もコンパウンドV(ヒーローが使用する特殊能力を目覚めさせる薬)をドーピングしたりしているので、これからそういう戦いが描かれるのかどうか。あくまで主人公はザ・ボーイズですから、頑張ってほしいですね(笑)。
ヒーローたちに対抗する「ザ・ボーイズ」たちは無能力者の4名+ヴィランとして登場した能力者1名で構成、毎回罠を仕掛けたり頭脳戦でヒーローたちに挑む。
シーズン2で窮地に落とされるホームランダーは、最終局面で血まみれになり絶望する。

原作では、さらに過激に(?)。

コミックではドラマで登場した性描写を超えるヒーローたちの酒池肉林や、(コンプラ的に)絵でしか表現できないショッキングシーンが連続。原作:ガース・エニス/画:ダリック・ロバートソン/G−NOVELS/既刊3巻3,000〜3,200円、電子版のみ4巻も発売中。

『ザ・ボーイズ』を より楽しむための4作品。

『ウォッチメン』(HBO版)

「アメコミ批判をテーマとしたメタなアメコミ作品。原作&映画『ウォッチメン』から舞台を現代に移してさらにハイブロウな内容に。1シーズンで終わらせたのも潔かった」(宇野)。製作総指揮:デイモン・リンデロフ/出演:レジーナ・キングほか/販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント/無修正版 ブルーレイ コンプリート・ボックス(3枚組)11,818円。

『ベター・コール・ソウル SEASON 1』

「『ブレイキング・バッド』の傑作スピンオフ。シーズン3以降は『ブレイキング・バッド』のラスボス的存在だったガスも大活躍 ガス演じるG・エスポジートは『ザ・ボーイズ』でもラスボス的存在として暗躍」(宇野)。製作総指揮:ヴィンス・ギリガン/出演:ボブ・オデンカークほか/発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/ブルーレイ コンプリートパック(3枚組)5,524円。

『26世紀青年』

「人間がものすごくバカになっちゃった未来の話。映画が作られたのは2006年だが、トランプ大統領が好き勝手言って、世の中がそれを普通のこととして受け入れつつある悪い状況を見ていると、今にも通じるなと」(てらさわ)。監督:マイク・ジャッジ/出演:ルーク・ウィルソンほか/発売・販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン/DVD3,800円。

『デッドプール/パニシャー・ キルズ・マーベル ユニバース』

「ヒーローとヴィランが戦っている最中、巻き込み事故で妻子を失ったパニシャー。遺族となった彼は、キャプテン・アメリカに謝ってくださいと言ったら、”あれは仕方なかった”みたいなことを言われ、復讐劇が始まる……という基本的には『ザ・ボーイズ』と同じ話」(てらさわ)。原作:ガース・エニス/画:ダグ・ブレイスウェイト、カレン・バン/ヴィレッジブックス/2,500円。

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うの・これまさ

映画・音楽ジャーナリスト。著書に『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)『小沢健二の帰還』(岩波書店)など。最新刊は田中宗一郎との共著『2010s』(新潮社)。

てらさわホーク

映画ライター。アメコミ映画を中心に雑誌『映画秘宝』(双葉社)で執筆。高橋ヨシキとの共著『ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク』(イースト・プレス)が発売中。

photo/
Ryo Kawanishi
text/
Kazumi Nanba

本記事は雑誌BRUTUS928号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は928号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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物語る、日用品。(2020.11.16発行)

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