バーチャル空間における、リアリティの面白さとは?
国内外の出版社やギャラリー、アーティストなどが一堂に会し、アートブックやZINEなどを販売するイベントとして定着した『TOKYO ART BOOK FAIR(TABF)』。今年はコロナ禍のため開催を見送り、その代わりバーチャル空間に場所を移した『VIRTUAL ART BOOK FAIR(VABF)』が開催されることになった。TABFでは、広々とした会場内を自由に回遊しながら、自分好みのアート本や気の合う出展者と出会えたり、トークイベントを楽しめたりできたが、果たしてバーチャルではそれがどう変わるのだろうか? イベントのディレクターである中島佑介と、ウェブディレクターの萩原俊矢に話を聞いた。
- 中島佑介
- 僕たちがVABFでやりたかったのは、リアルな場で生まれるコミュニケーションや熱量、人の気配などをバーチャル空間でも実現したり感じたりできること。加えて、萩原さんがバーチャルはリアルの代替ではないと言ってくれたので、そこもポイントになりました。
- 萩原俊矢
- そうなんです。だから今回は出展者が自分たちの情報をアップロードできて、それを来場者が見られるプラットフォーム自体から開発することにしました。制作期間は2ヵ月半ほど。携わるのはフリーランスの優秀なエンジニアが集結した少数精鋭部隊です。例えば、3DCGのプログラミングのエキスパートや3DCG空間を建築施工するチームなどが揃い、ややゲームの制作に近い布陣になっています。インディペンデントなイベントでここまでやるのは、かなり特異なことだと思います。エンジニア陣はほとんどの人が京都在住なので、やりとりはすべてリモートで行っています。実は僕も中島さんも彼らにはまだ一度も直接お会いしてないんです。とても今っぽい仕事の進め方になりました。
- 中島
- 確かにそうですね。しかも8日間の開催のためにしては、かなり大がかりなプラットフォームです。
- 萩原
- 会場全体の構成は、本来TABFを行う予定だった東京都現代美術館をモチーフにしたエントランス空間と、オランダ出身のネットアーティストとして知られるラファエル・ローゼンダールのインスタレーションを鑑賞できる庭の空間、出展者ブースのアイコンが並ぶ部屋を用意しました。
- 中島
- ブースでの展示は、TABFのリアルな空間と同じくテーブルと壁で構成していて、TABFではテーブルのサイズが600×1,800㎜ですが、今回はそれをピクセルに置き換えてサイズを統一しています。そこに載せる本の画像の数やサイズ、見せ方などは、出展者の自由。萩原さんはどんなアイデアが考えられると思いますか?
- 萩原
- 例えば、複数の本の縮尺を現実と変えて並べてもいいし、表紙ではなく背表紙を並べてもいいかもしれない。表紙をイラストにすることもできますよね。何が出てくるのかわからない不安もありますが、まずは出展者に委ねてみたいです。
- 中島
- なるほど。ほかにも各ブースのページには、ミーティングアプリやツイッターのタイムラインの表示、テキストスペース、フェイスブックのメッセンジャーなどいろいろな機能がついていますが、使い方にルールはなく、出展者が面白いと思うやり方をしてほしいんです。ミーティングアプリの対応時間も各ブースに任せているので、特に海外のブースは夜中にオープンしているかもしれません。すべてがキチキチに整いすぎているのではなく、多種多様な人が一つの空間に集まって自分らしい表現をすることで、バーチャルでもいい意味でカオスが生まれたら、それがブックフェアらしさになるのかなと思います。それとTABFで起こりがちだった、会場が混みすぎていて自分の行きたいブースに辿り着けないとか、気になったブースを再訪したいけど場所がわからなくなったみたいな問題を、ジャンル別のソート機能や、ブースのお気に入り登録機能によって解決できる仕組みになっています。
- 萩原
- それとバーチャルだからといって一人で楽しむのではなく、友達と時間を合わせてZoomに集合して、画面共有で一緒にVABFを体験してみてください。遠く離れた友達など、ふだん会えない人と遊ぶきっかけに使ってもらえたら嬉しいですね。
- photo/
- Aya Kawachi
- text/
- Hiroya Ishikawa
本記事は雑誌BRUTUS928号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は928号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。