アート

東海林小百合 × 森本千絵|世界に誇るアートディレクター、石岡瑛子の大回顧展開催中。

BRUTUSCOPE

No. 928(2020.11.16発行)
物語る、日用品。
東海林小百合(左) 森本千絵(右)

憧れの先輩へ、思いを乗せて敬意の礼。

世界を舞台に自らのクリエイティブを縦横に発揮したほぼ唯一の日本人アートディレクター、石岡瑛子。そんな石岡さんをグラフィック面でアシストした経験を持つ東海林小百合さんと、石岡さんをリスペクトしてやまない森本千絵さん、2人がそれぞれの思いを語ってくれた  。

まず東海林さん、一緒に仕事をした当時の印象をお願いします。
東海林小百合
私は80年代後半のNYで、共通の知人を介して石岡さんがアシスタントを探しているという話があって、それでお手伝いをするようになったんです。その時の石岡さんの印象は、これほど全身全霊で仕事に取り組む人がいるのかという畏怖、驚きですね。仕事の大小など関係なく、ホント少女のようなピュアな情熱で仕事に取り組む人でしたから。
森本千絵
ご本人も「人間力は才能の一つだ」って何かで書かれてましたよね。オン・オフの切り替えはどうでしたか?
東海林
すごくありました。仕事の時は頭の回転が速いから私はついていくのに精いっぱい。クリエイティブに対しては常に厳しい人でしたけど、オフの時はウィットに富んだ会話が楽しかったし、お料理も上手で手早くパパッて作っちゃう。心根がとても優しくて柔らかいんです。私は石岡さんという巨大な才能の前に、追い詰められ何も見えなくなってしまった時期もありましたけど、一人の人間としては尊重してくださった。だから最後まで尊敬を持ってついてこられたんです。
森本
品性が気高いんですね。
東海林
そう。あと、基本的に徒党を組まず、独立独歩。例えば舞台衣装ならこの人といった信頼する外部スタッフは何人もいたようですが、必要な時に必要な人とチームを組むスタイルでしたね。
森本
そういうお話を伺うと、石岡さんにとって当時の日本の広告業界は狭すぎたんだろうなと想像できます。きっとNYの水が合っていたんでしょうね。
東海林
NYの場合、仕事上ではボスが絶対的な存在ではあるけれど、人間としてはボスもスタッフも対等な存在として認められているところありますから。石岡さんもプロジェクトのボスとはちゃんとコミュニケーションを取って、ボスが思い描くものと彼女が作りたいイメージとを共有していましたね。
森本
私は『落下の王国』の日本での試写の時に、一度ご挨拶することができたんです。そうしたら、すごく柔らかいオーラを持った方でビックリしました。
東海林
そうなんですよ、柔らかい。
森本
作品はホントに細部まで寄せつけないほどの強度を持ったエネルギーの塊なのに、ご本人は細かいところまで柔らかくて、すごく貴重な経験になりました。
東海林
でも何より言っておかなくちゃいけないのは、作品の素晴らしさ。
森本
ですね。本当にヤバい。石岡さんというと赤が代名詞のように言われて、たしかに赤はヤバいけれど、紫も黒も全部ヤバいんですよ。素晴らしく鍛錬された、靱やかなボディのようなデザイン。
東海林
加えて、コラボレーションする相手がまた各界の超一流ばかりですから。
森本
そうですね。そういう人たちと、鍛え上げてきた者同士じゃないと生まれない会話やビジョンを交わしてって思うと、その様子を想像するだけで胸がドキドキして幸せな気持ちになります。
東海林
至福のクリエイションですよね。
最後に石岡さんに一言ずつ。
東海林
「世の中にはすごい才能がたくさんいるから、自分を見ることを忘れちゃダメよ」という言葉を今も大切にしています。そして、そんな瑛子さんに出逢えたことに心から感謝しています。
森本
私は石岡さんの作品から、人間関係や時間など、あらゆる線引きを超越して自らの画を描く原点を磨き続ければ、素晴らしい出逢いに辿り着けることを教えられました。これからも、自らの内なるクリエイティブ魂に耳を傾けて誠実に作り続け、一生懸命生きていこうと思っています。聞こえてますか、石岡さん?
東海林
うふふ、素敵なラブレター。きっと聞いていらっしゃいますよ。
石岡瑛子 映画『ドラキュラ』(フランシス・F・コッポラ監督、1992年)衣装デザイン ©David Seidner/International Center of Photography

『石岡瑛子 血が、汗が、 涙がデザインできるか』

〜2021年2月14日東京都現代美術館で開催中。アートディレクター、デザイナーとして世界を舞台に活躍した石岡瑛子の大回顧展。クリエイティブへのほとばしる熱情を体感したい。

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しょうじ・さゆり

アートディレクター、グラフィックデザイナー。Sayuri Studio, Inc.主宰。NYのカルヴァンクライン本社勤務時代に、石岡瑛子と出会う。現在は東京をベースに国内外のプロジェクトを手がけている。

もりもと・ちえ

アートディレクター、グラフィックデザイナー。goen°主宰。広告の企画、演出、商品開発からCDなどのアートワーク、映画や舞台の美術、動物園や保育園の空間ディレクションなど活動は多岐にわたる。

photo/
tajima kazunali
text/
Kaz Yuzawa

本記事は雑誌BRUTUS928号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は928号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.928
物語る、日用品。(2020.11.16発行)

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