エンターテインメント

ブライアン・イーノが語る、映画音楽の作り方。

BRUTUSCOPE

No. 928(2020.11.16発行)
物語る、日用品。
Brian Eno

 ブライアン・イーノが音楽家としてキャリアをスタートさせてから、今年で50年。アンビエント・ミュージックの創始者として知られる通り、現在でも聴いたことのないような音楽を作り続けている。自身の作品は挑戦的である一方、デヴィッド・ボウイなどロック史に残る名盤のプロデュースも担当。莫大な仕事の中で、映画のスコアも数多く手がけ、その楽曲をまとめた編集盤『フィルム・ミュージック 1976−2020』を発表する。

「私の映画音楽の制作方法は、まず作品のテーマと大まかなストーリーを教えてもらう。電話で話すなら2分程度の説明でいい。それで映画の持つムードやビジョンが浮かぶから、すぐにスタジオへ入り、作業を始める。その時点では、なにをやっているのか、自分でもよくわかっていない。しかし、その状態こそ、なにかを作り始めるには、いいタイミングだと思うんだ。映画と音楽の組み合わせが出来上がる、チャンスが生じやすいと考えている。私が感銘を受けたエンニオ・モリコーネやニーノ・ロッタという作曲家たちも、実は映画そのものとは、かけ離れたところで書いていたんじゃないかな。あるいは(映画本編とは)別の解釈をしているというか。私自身も“とあるムード”を作り、あとは監督に、好きに使ってもらう方が好きなんだ。音楽ピースと映画の内容が、ぎちぎちに結びついているより、示唆的で、雰囲気を醸し出すような音楽の方が、よっぽど効果的なんじゃないかな。反対に、別れのシーンで“エコーのたっぷりかかった寂しげなピアノ”とか、映画を観ていて“頼むからやめてくれ!”と思う」

 セオリーを嫌う音楽家は天啓を待つ。

「歌手や演奏家を招いてレコーディングをする時には、“この曲を作る際に、左手だけで作業する”“この作品は30分で仕上げなくてはならない”など、ルールを決めることがある。自分をいつもと別の領域に敢えて押しやるためで、習慣にのっとって、毎日のように繰り返してきたこと、いわば、敷かれたレールから外れるというか、癖から免れる(笑)。コンピューターの便利なツールを開けば、速く作業が進むとわかっているけど、私はとにかく、いつもとは異なる場所に身を置き、違う地点から物事を始めるのが好きなんだ」

 最後に好きな映画を紹介してもらおう。

「各キャストの顔つきが、とんでもなく興味深い『バリー・リンドン』。アルジェリア独立戦争を描いた『アルジェの戦い』は物事は白黒では割り切れないと、意識を根底から変えさせられた作品だ」

『フィルム・ミュージック 1976−2020』

自身が手がけた300曲近い映画音楽の中から厳選され、さらに細かく編集作業が加えられたという全17曲。デレク・ジャーマン監督『セバスチャン』(1976年)やミケランジェロ・アントニオーニ『愛のめぐりあい』(95年)から、マイケル・マン監督『ヒート』(95年)やデヴィッド・リンチ監督『デューン/砂の惑星』(84年)などハリウッド作品まで。「意外とスムーズに聴けたって? それはよかった。自分の記憶が入ってくるから、こういう作業は苦手。選曲はスタッフに任せたんだ」とのこと。

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ブライアン・イーノ

1948年イギリス・サフォーク州生まれ。今年は映画のサウンドトラック『ラムズ』、実弟のロージャー・イーノとの共同作品『ミキシング・カラーズ』などの新作のほか、ジョン・ケイルやジャー・ウォブルとの共演作の再発など作品の発表が続いている。

photo/
Cecily Eno
text/
Katsumi Watanabe

本記事は雑誌BRUTUS928号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は928号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.928
物語る、日用品。(2020.11.16発行)

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