“ホット”なだけじゃない、自由なスパイス料理をコースで。
ネパール人シェフが営む新感覚ネパール料理店と、中国料理で腕を磨いたシェフによるスパイスがテーマのイノベーティブダイニング。スパイス料理の新しい可能性を示す新店が、中目黒と祐天寺に。満足度の高い“アラウンド5,000円”のコースで、芳しき美味の旅へ。
【ADI ●中目黒】季節感あふれるモダン・ネパール料理。
間借り店舗での営業で人気を博した麻布十番〈アディカリ―〉のネパール人シェフ、アディカリ・カンチャンさんが実店舗をオープン。チャイとラッシースタンドを併設、平日は1,200円のダルバート(定食)ランチありと間口の広い店だが、真骨頂を味わうなら夜のコースが推し。
ネパール料理の定番を組み込みながら、モダンな仕立てで、そのイメージを覆していくのがコースの狙い。ストリートフードのパニプリは、梅のような酸味を効かせて、モモには赤パプリカやトマトのソースを添えて、という具合に。在日歴10年、居酒屋やフランス料理店で日本の食のシーンの多彩さと食材の豊かさを学んだ経験が、うまく落とし込まれている。イクラにサンマと、季節の素材使いもこれまでになくユニーク。陶器の器は、益子焼の作家に依頼。ネパールの茶文化を紹介すべく茶葉を販売するなど、小さな店で日本×ネパールの文化をクロスオーバーさせ、ポップに発信する。
日本でもお馴染み、ネパール版水餃子。全粒粉を練り込んだ皮は、食感、香りともに豊かで、トマトとパプリカの真っ赤なソースが黒の器に映え、野菜の甘味、旨味を添える。鶏肉にアスパラを練り込んだ餡には、クミンやコリアンダーを効かせて。料理はすべて夜のおまかせコース(7~8品)4,950円から。
インド発祥の揚げ菓子で、小麦粉に加え、米粉、豆粉で生地を作るのがADI風。直前に注いだスープと一緒に食べるものだが、定番のタマリンドの代わりに、ラプシという果実で梅のような酸味をプラス。後味さっぱり。
クミン、コリアンダーにたっぷりのトマトとネパール山椒を加えたカレーに、焼き目をつけたサンマを合わせて。ご飯は、カンチャンさんの故郷のスタイルに倣い、バスマティライスにジャポニカ米をブレンドして使用。
【レカマヤジフ ●祐天寺】点心も中国野菜もありの自由なスパイスコース。
1994年生まれの26歳(!)ながら、〈ザ・ペニンシュラ東京〉の〈ヘイフンテラス〉で7年、広東料理の基礎とファインダイニングのプレゼンテーションをがっちりと学んだ髙木祐輔シェフ。「国籍やジャンルに縛られずにいきたい」と、スリランカ産生コショウの輸入・加工・販売を手がける〈アパッペマヤジフ〉の新店を活躍の場に選んだ。
ディナーコースは「カレーの分解」と題して、カレーに使われるスパイス一つ一つに焦点を当てた料理で構成する。クミンやカルダモンを効かせた野菜料理中心の前菜盛り合わせに続き、青山椒を使った点心や中国野菜とターメリックの一皿など、キャリアを滲ませる一品も。野菜や魚の火入れ、塩の決め方に安定感があるから、カレーは台湾産山コショウ・馬告で、なんて遊びも心底楽しめる。ワインに加え、スパイスカクテルもいろいろ。東京でもまだレアなアジア系イノベーティブ、コース5,000円は文句ナシにお値打ち。
「茎レタス」の別名で知られる中国野菜・チシャトウを、ターメリックと腐乳で風味づけした広東料理伝統の米のソース「米湯」と合わせた一品。小麦粉や片栗粉と水を加え、味をのばすのではなく、旨味の凝縮感そのままに仕上げるのが髙木シェフの基本姿勢。料理はすべて夜のおまかせコース5,000円から。
上から時計回りに、フェネグリークが香るホタテ貝柱、マコモ茸のレモングラス和え、豚の生胡椒燻製焼き、カブのクミンロースト、フルーツトマトの桂花陳酒漬けとゴボウのカルダモンピクルスなど。丁寧な仕事が光る。
爽やかな台湾山コショウ・馬告を効かせたキーマカレーは、店のスペシャリテ。モロヘイヤのピュレで食感とみずみずしさを、卵黄のピクルスでコクと旨味を添える。ご飯は、コショウの茎を煮出しただしで炊いて香りづけ。
ADI/アディ
電話:050・3184・4491
営業時間:18時~、20時30分~(2部制)。平日昼11時30分~14時LO。
酒:ネパールビール(小瓶)700円~、ワイン(グラス)1,000円~。
価格:平日昼1,200円、土曜・日曜昼2,500円、夜コース4,950円。
席数:カウンター3席、テーブル4卓8席。
●東京都目黒区上目黒2−46−7。月曜休、金曜昼・火曜夜・日曜夜休。チャイスタンド 火曜~日曜9時~18時。土曜・日曜昼は11時~、12時30分~、14時~の3部制(定食コース。予約優先)。東京メトロ中目黒駅から徒歩6分。2020年8月5日オープン。フランスやニューワールドのワインが揃う。チャイのテイクアウト500円~、茶葉1,296円~。カンチャンさんの妻、明日美さんが接客を担当。
レカマヤジフ
電話:03・3793・5181
営業時間:11時30分~14時30分LO、17時30分~21時LO。
酒:生ビール(グラス)650円~、ワイン(ボトル)4,000円~。
価格:昼1,300円~、夜コース5,000円、カレーセット2,500円ほか。
席数:カウンター4席、テーブル6卓24席。
●東京都目黒区五本木1−6−3。月曜、第2・4火曜休。東急東横線祐天寺駅から徒歩6分。2020年9月4日オープン。昼のカレーはスリランカの米粉のクレープ、エッグホッパーがセットに。カレーはあいがけ4種までをお好みで、ご飯の量も選べる。スパイスカクテルは8種600円~。ワインはニューワールド産のナチュラルワインを中心に約30種。生コショウやカレーの缶詰の販売も行っている。
- photo/
- Naoki Tani
- 文/
- 佐々木ケイ
本記事は雑誌BRUTUS927号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は927号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。