エンターテインメント

崔実『ジニのパズル』

星野概念「精神医学で診る本の診断室」

No. 927(2020.11.02発行)
映画監督論。

自分の傷を言い訳に、よりによって最も大切な人たちを、傷つけ、騙し、欺き、追いやり、日の当たらぬ闇の底へ  自ら這いつくばって抜け出すしかない奥底まで突き落とした人間。それが私だ。在日韓国人の少女が抱える辛さと、革命の物語。講談社/1,300円。

主治医・星野概念 診断結果:「助けて」と言えないほどの、孤独な辛さに寄り添うために。

 暴れたり、自分を傷つけたり、物を壊したり、ほかにも、周りが困る行動を繰り返す人がいます。徐々に腫れ物扱いされ、誰も信用できないような気持ちが悪循環。孤独は深まります。診療でも、このような人に会います。はじめは、話してくれないし、話を聞いてもくれないし、社会的逸脱行動は繰り返すし、どう接したらいいか戸惑いました。でも、何人かの人と接するうち、抱える悩みが複雑すぎたり、それをわかってもらえない環境が長かったりすると、「助けて」が言えなくなることがわかりました。だからさらに追い詰められて、過激に行動せざるを得ないのです。本作の主人公ジニの環境も非常に複雑。在日3世という少数者であるのに加え、日本語の小学校から朝鮮語の中学校に入ったことでそこでも少数者になり馴染み切れません。さらに、テポドンが飛んできた翌日、チマチョゴリを着ていただけで、見知らぬ日本人の男性に侮蔑的なことを言われながら暴力を受けます。これらの、自分ではどうにもできない要因が絡み合った、重い辛さを抱えたジニに、「助けて」と頼れる人はいませんでした。ついに学校で過激な行動に出た結果、本人は精神科に入院、家族は笑顔を失い、親友はショックで不登校になり、誰も救われません。悪循環が極まる中、高校でアメリカに移り、やっとわかってくれる相手に出会います。人の行動には、うまく表現できなくても必ず理由があって、それをわかってもらえることは、とても安心することです。だから、簡単にわからないからといって腫れ物扱いするのではなく、その人の境遇を想像するのをやめずにいたいと思います。

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ほしの・がいねん

精神科医など。いとうせいこうとの共著に『ラブという薬』『自由というサプリ』がある。

編集/
大池明日香

本記事は雑誌BRUTUS927号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は927号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.927
映画監督論。(2020.11.02発行)

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