エンターテインメント

阿部海太郎が奏でる、15世紀パリの12ヵ月。

BRUTUSCOPE

No. 927(2020.11.02発行)
映画監督論。
阿部海太郎

「世界一美しい本」を、最新技術の恩恵を借りて音楽化。

 阿部海太郎が新作『Le plus beau livre du monde 世界で一番美しい本』を完成させた。この作品は、NHK 8Kの番組『世界で一番美しい本』のために書き下ろされた楽曲で構成。モチーフは15世紀の装飾写本『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』で、当時のフランスでの1月から12月までの暮らしが描かれている作品だ。

「初めて作品を見たのは、8K技術で撮影された映像で、技術的にミニアチュール(彩画)をどこまでも拡大して見ることができたんです。それぞれのモチーフに愛嬌があって、まるで、自分が絵の中に入り込んだような感覚で、いきいきとした情景が見えてきた。美術的な価値とは別ですが、そうやって見ることで、貴重な作品にとても親近感が湧いてきたんです」

 しかし、ネット上で閲覧できる『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』を見ながら、この作品を聴いても、当時の空気感や暮らしを想起することができる。想像力をかきたてる、タイムマシンのような音楽。8Kが作曲家に与えたパワー、恐るべし。

「作曲のコンセプトは、拡大鏡で彩画を眺めることをテーマにしました。絵画を概説的に音楽にするのではなく、例えば『1月』なら、政治的なパーティに内心うんざりしているベリー侯と、テーブルの下の愛犬にフォーカスして。ベリー侯と愛犬が心を通わせている関係を、トランペットと足踏みオルガンで表現しました。すべての月で、細かい物語を設定しています」

 歴史的なモチーフを、近代的な技術を使い再度表現しているのも、ロマンティックな話だ。「NHKの8K放送の音声規格は、22・2chサラウンド。つまり、22個のスピーカー、2つのウーファーを揃えて初めて再現される音響です。とてつもない音響効果を生むレコーディングは刺激的でした。いずれ、アルバムの22・2ch再生のイベントが実現できたらと思っています」

『Le plus beau livre du monde | 世界で一番美しい本』

マンドリンの音色が美しいイントロ的な「遠い昔に教わった歌」で始まり、2曲目「一月 アンプロッシュ、アンプロッシュ」から13曲目「十二月 アラリー」と、12ヵ月分の楽曲が続く。最後は盛大なオーケストレーションの「ベリー侯のいとも豪華なる時祷書」で終焉。

「十一月 そこに森がある」のモチーフになった実際の彩画。 photo by Gettyimages
photo by Gettyimages
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あべ・うみたろう

作曲家。さまざまなメディアで作曲を行う。アルバムの特設サイトを開設。楽曲に対し、振付家のアブシャロム・ポラックが制作する映像などを紹介予定。

text/
Katsumi Watanabe

本記事は雑誌BRUTUS927号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は927号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.927
映画監督論。(2020.11.02発行)

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