アート

川内倫子が新作『as it is』を上梓。内田也哉子と家族を描いた作品について語った。

BRUTUSCOPE

No. 926(2020.10.15発行)
恋の、答え。
川内倫子(左) 内田也哉子(右)

アートピースとして楽しむ、家族のドキュメント。

誰しもの身近に存在する家族という普遍のテーマ。自身の出産から約3年間撮った写真集を上梓したばかりの川内倫子さんが、エッセイストの内田也哉子さんと久々に再開した。

内田也哉子
久しぶりです!
川内倫子
最後にお会いしたのは9年くらい前ですね。
内田
倫子さんが子供を産んで新しい人生を歩んでいてびっくりです。
川内
20年くらい前に撮影でお会いした時、也哉子さんに子供を持つことについて聞いたら、「倫子さんも、もしも興味があるなら作った方がいいよ。子育てはクリエイティブな作業だから」と言われていたのを、今でも覚えています。
内田
そんなことを押し付けていたんですね(笑)。
川内
当時は自分のことで精いっぱいで、子供を授かりたいと思う余裕はありませんでした。でも節目に也哉子さんの言葉を思い出していて、4年前に自分にとってはラストチャンスだと思い44歳で出産しました。
内田
今の私じゃないですか すごいチャレンジでしたね。一概には言えないですが、うちの父みたいに破天荒でも、最後は子供がいてよかったって言っていましたからね。
川内
最近はいつか両親を看取ることが怖くて仕方なくて。也哉子さんはよく乗り越えられましたね。
内田
看取った後、どこか出産に似ていると思いました。どちらも抗えないものですよね。でも母が亡くなった直後はあまりに衝撃的で、半年後に父が亡くなって、初めてのことばかりだし、どうやって消化できるのかわからなくて体を壊したりしましたが、2年が経つ頃にやっと引いて見ることができました。人生って車窓のようにどんどん移り変わっていきますね。でも、今回の新しい写真集、素晴らしかったです。今のお住まいは東京ですか?
川内
娘が1歳2ヵ月の時、千葉の川沿いの家に引っ越しました。
内田
緑に囲まれていますね。倫子さんの写真は、瞬間、画角、光、すべてがアートピースで、絵画のようでもあるけれど、精神は果てしなくドキュメントですよね。
川内
そうなんです。でもどこか抽象化したい部分があって、それが絵画的と言われる所以かもしれません。自分にとって写真はリアルと抽象のバランスが取りやすいんです。
内田
相反するものに感じますが、そうではないんですね。構図は計算して切り取っていますか?
川内
撮っている時にあまり策略はなく、選ぶ時のさじ加減の積み重なりで一冊ができていますね。
内田
私は臆病なところがあるから、生々しすぎるものを映像や写真で見ると心が引っ込んでしまうのですが、倫子さんの写真はパーソナルだし、写しているものは生々しいのに、そこに客観性がちゃんと入っている。温度感がありながらも押し付けがましくない。最初の頃の写真を振り返ってみて、変わったと思いますか?
川内
自分の中では全然変わっていないのですが、先日久しぶりに初写真集うたたね』の重版が決まって、印刷立ち会いに行って改めて見たら、今は撮らないなと思う写真も。
内田
若いぞって思うんですね。
川内
あの時の自分のドキュメントだなって。20代でまだ写真家になり切れていなくて、すべてが不安でひとりぼっちで、あの時の私、よく頑張っていたねって(笑)。
内田
愛おしい気持ちですね。
川内
こんな写真はいつでも撮れるとずっと思ってきたけれど、20年経つとあの時のようには撮れないと感じます。それは子供ができたのが一番大きいですね。
内田
自分が写っていなくても、作品は自分のドキュメントなんですね。今回、家族写真で思い浮かんだのが、テリ・ワイフェンバックの写真集でした。倫子さんの『うたたね』もですが、人が写っていないのに人の気配のする写真を2人とも撮ると思っていたら、お2人の合作があるんですね テリとは彼女の『Hunter GREEN』の序文を書いてから時々文通をしていた時期があったので、急に繋がってびっくりしました。
川内
『Gift』(1)ですね。もともとは私たちが往復書簡のようにメールで写真を送り合っていたのがきっかけで生まれた写真集です。
内田
とてもパーソナルな出発点から生まれた写真集なんですね。
川内
家族写真というテーマで数冊持ってきたのですが、このサリー・マンの『IMMEDIATE FAMILY』(2)は、私にとって初めての写真集なんです。写真を始めたばかりの頃にどうしても欲しいと思っていたら友人がプレゼントしてくれました。サリー・マンには子供が3人いて、自然の中で子供たちを撮っています。
内田
これは旦那さんも持っています。今、同じようにお子さんを撮っているのはどういう気持ちですか?
川内
自分の人生でそんなことが起きるとは思っていませんでしたね。
内田
古屋誠一さんの『Mémoires. 1984−1987 最後のメモワール』(3)のプリントは英国のギャラリーで数枚見ました。
川内
妻のクリスティーネを撮った写真集を古屋さんが最初に出版したのは1989年でこれは2010年に出たものです。彼女が亡き後もずっと写真を通して向かい合っている。
内田
気迫がじかに伝わります。
川内
古屋さんは自分にとって数少ない先生みたいな方で、一つの被写体に向き合う精神力をとても尊敬しています。『In the Shadow of Things』(4)は友人の写真集ですが強迫性障害とうつ病の母親のドキュメントです。
内田
リアルなのにどこか映画のような浮遊感も。
川内
『Sommerherz』(5)では、ドイツ写真家が自分の家族や友人を撮っていますが、縦位置で甘いフォーカスの感じが、テリの写真を思い出させますよね。最後の『BRIGHTON PICTURE HUNT』(6)は、アレック・ソスが滞在制作でイギリスを訪れた際に労働ビザを持っていなくて、写真の撮影ができなくなったので代わりに彼の娘が撮ったものです。
内田
家族が助け合って困難をうまくアートに昇華していて素晴らしいです。お子さんが生まれて、写真の撮り方や見方は変わりましたか?
川内
写真の撮り方は変わりませんが、プライベートではすごく変わりました。生きることに前向きになれて、子供に生かされると感じます。
内田
親になると、自分が経験してきたことを、子供を通して巻き戻しして見させてもらえますよね。
川内
本当にそうです。見ていると悔しくて泣いていた頃の感情が蘇ってきます。也哉子さんに以前お会いした時、自分が子供からもらったものを、この子たちに返したいと言っていたのをよく思い出します。自分がこれから娘に何を与えられるのかなって。
内田
きっとありのままで豊かな未来が待っていると思います。

2人が選んだ、家族を描いたドキュメント作品。

(1)『Gift』川内倫子 Terri Weifenbach

2人の写真家が個人的にやりとりしていたメールによる往復書簡が、やがて写真を送り合うプロジェクトに発展して生まれた一冊。送られたイメージにお互いが呼応していくことで、彼女たちの詩的な物語が紡がれていく。

(2)『IMMEDIATE FAMILY』SALLY MANN

アメリカ人写真家サリー・マンが、ヴァージニア州で自然に囲まれて暮らす3人の子供たちの姿を、8×10インチの大判カメラで写した1992年刊行の名作。無垢な危うさを持つ彼らの姿があらわに描写され、センセーショナルな内容が話題を呼んだ。

(3)『Mémoires. 1984-1987 最後のメモワール』古屋誠一

オーストリアでクリスティーネに出会った古屋は、彼女と結婚し、子供を授かり、彼女が1985年に投身自殺するまでを撮り続けた。以後たびたび写真集にまとめてきたが、本書は家族の日々と東ドイツの風景が織り交ぜられている。

(4)『In the Shadow of Things』LEONIE HAMPTON

強迫性障害とうつ病を患う母親が、最初の離婚以来開けられずにいた思い出が詰まった箱を開け、過去と対峙する過程を記録した一冊。箱から出てきた家族写真、家族の対話を書き起こしたテキストなどで構成されている。

(5)『Sommerherz』THEKLA EHLING

写真家自身の子供や友人たちを数年にわたって撮影したポートレートや、周囲の自然風景を通して、幼少期の孤立した時間が立ち現れる。タイトルは「Summer Heart」の意味。鑑賞者は追体験するように写真の世界へと誘われる。

(6)『BRIGHTON PICTURE HUNT』CARMEN AND ALEC SOTH

ブライトンでの滞在制作に招かれてイギリスを訪れたアレック・ソス。入国時に労働ビザがなかったために撮影が許可されず、代わりに7歳の娘が彼のカメラで撮影することに。ピンチがユーモアあふれるアイデアを呼んだ一冊。

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うちだ・ややこ

1976年生まれ。文筆家。『会見記』『BROOCH』のほか、近著に『9月1日母からのバトン』、翻訳絵本『ピン あなたの こころの つたえかた』(共にポプラ社)。

かわうち・りんこ

1972年生まれ。写真家。国内外で数々の展覧会を行う。近刊にFasu.jpでの連載を書籍化したエッセイ集『そんなふう』(ナナロク社)がある。

『as it IS川内倫子
川内が出産から約3年間で撮りためた、自身の子供や日常の写真で構成した新作写真集。子供の成長や四季折々の風景を通して、なにげない日々のかけがえのなさに気づかされる一冊だ。torch press/3,000円。

photo/
Yu Inohara
text/
Nao Amino

本記事は雑誌BRUTUS926号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は926号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.926
恋の、答え。(2020.10.15発行)

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