エンターテインメント

歌姫の歴史が詰まった玉手箱。『レアリティーズ』マライア・キャリー

西寺郷太のポップ警察〜名曲・珍曲・捜査録〜

No. 926(2020.10.15発行)
恋の、答え。
全世界でトータル2億枚超を売った歌姫マライア。本作にはYMOの曲をサンプリングした初期のデモ音源やローリン・ヒルとコラボした最新楽曲も収録。

マライアはきらめきを放ち続ける現在進行形のスター。

 今年デビュー30周年を迎えたマライア・キャリーが、1990年の初デモテープ音源から、現在までの未発表曲、新曲をまとめたアルバム『レアリティーズ』を発表。彼女が生み出してきた「ポップミュージックのど真ん中の歴史」を、玉手箱を開くように駆け足で辿るアルバムも楽しいのですが、特に感動したのが日本盤に収められている96年3月7日のマライア初来日、東京ドーム公演のBlu-ray。

 この24年前の映像が、コロナ禍の今観ると異様に懐かしい。デビュー当時高校2年生の僕は、いきなり全米ナンバーワンを獲得した最初のシングル「ヴィジョン・オブ・ラヴ」を熱心に聴き、彼女のポスターを部屋に貼ったりもしていました。ただ、その後ずっと追いかけてきたわけでもない自分も驚くほど、若かりし彼女のキュートな姿とハイパーなボーカルにキュン。大観衆が集まった東京ドームは3日間完売。去年までの普通の世界はノスタルジア。すべてが美しい昔話、まさに彼女のヒット曲「ファンタジー」の世界のようで。

 よく考えてみると、マライアこそ、「最後の洋楽メガスター」ではないでしょうか。98年にリリースしたベスト盤『The Ones』が日本だけで360万枚を超える大ヒットになったお茶の間感覚は、マドンナをも超えています。マイケル、プリンス、ジョージ・マイケルやホイットニーが亡くなってしまった以上、元気なマライアは数少ない「80年代」「90年代」的なきらめきを放つ現在進行形のスター。ベネズエラ系とアフリカンアメリカンの血を引く父と、アイルランド系のオペラ歌手であった母との間に生まれ、人種差別も受けた貧しい生活の中から「7オクターブ」の歌姫と呼ばれる類い稀なる実力でシンデレラストーリーを駆け上り、世界中を虜にしたマライアは、分断されていない文化の象徴。だからこそ今、彼女の存在を大切に思えるんだろうな、と。

 体重が120㎏を超えた、また痩せた、など「お騒がせセレブ」的な注目を両立させているマライアですが、彼女の存在こそポップミュージックの最後の砦。当時未発表になった思いっきりナインティーズな楽曲たちもグッときて。「マライア再訪」お勧めです!

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にしでら・ごうた

音楽家。ノーナ・リーヴスのシンガー&ソングライター。「GOTOWN Podcast Club」全ストリーミングで毎週配信中!

文・題字/
西寺郷太
編集/
辛島いづみ

本記事は雑誌BRUTUS926号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は926号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.926
恋の、答え。(2020.10.15発行)

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