エンターテインメント

詩人・菅原敏による、燃やすための詩集。

BRUTUSCOPE

No. 926(2020.10.15発行)
恋の、答え。
〈mitosaya〉のオー・ド・ヴィ「LEMON POI」と燃えていく詩。
尾道〈LOG〉にて。

〈mitosaya〉江口宏志さんとレモンのお酒が香る詩集を発売。

 私の新作『果実は空に投げ たくさんの星をつくること』は、読み終えたページを破りマッチで火を付け、蒸留酒の香りと共に立ち上る煙を楽しむ、世界初の「燃やす詩集」。〈mitosaya薬草園蒸留所〉初の出版物でもあります。

 ページを燃やせばもう二度と読めないけれど、言葉たちは香りと煙になって記憶のどこかに残る。全20ページの小さな詩集ですが、〈mitosaya〉江口宏志さんとの本づくりは、なんとも楽しいものでした。「お酒と本をつなぐ一冊を作ろう」とお誘い頂き、最初に打ち合わせをしたのが二年ほど前。〈mitosaya〉のオー・ド・ヴィ「LEMON POI」を飲みながら書き進めました。

 一枚ずつ破っては燃やす「香りの旅」への切符のようにも感じていたので、見知らぬ街の情景が立ち上る一連のストーリーのように20編を書き下ろしています。

 江口さんの方では紙にお酒の香りを定着させる実験などを繰り返し、ようやく出来上がった一冊。特殊な和紙を使用し、お香のように時間をかけゆっくりと燃える紙に「LEMON POI」を含浸させることで、ほのかな香りを楽しむことができるように。本の世界でも、お酒の世界でも、いつも飾らず軽やかに新しい文化を作る江口さんと一緒に本を作れたことが嬉しかったです。

 9月12日にはスタジオ・ムンバイが日本で初めて手がけた尾道のホテル〈LOG〉にてリリースイベントも。私の朗読と共に、お客さんとページを破いて燃やしてもらいました。本を燃やす背徳感と、レモンの香りを共有した夜。〈LOG〉はスタジオ・ムンバイの感性と尾道の文化が重なり合う素晴らしい場所でした。国も時代も揺らめいて、だけどどこか懐かしさを感じる場所で、静かに言葉を燃やしたひととき。また戻りたいと思う場所がひとつ増えた旅になりました。

『果実は空に投げ たくさんの星をつくること』

一枚一枚が、見知らぬ街へと連れてゆく切符のように。全20編(英訳付き)収録。燃やされる日を待ちながら、過去と未来の情景が静かに香る。〈mitosaya〉公式サイトで販売中。2,200円。

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すがわら・びん

詩人。執筆活動を軸に、ラジオやテレビでの朗読、欧⽶やロシアでの海外公演など広く詩を表現。現在は香りや食に関わるプロジェクトも多数。東京藝術⼤学⾮常勤講師。

text/
Bin Sugawara
edit/
Asuka Ochi

本記事は雑誌BRUTUS926号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は926号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.926
恋の、答え。(2020.10.15発行)

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