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【10月16日公開】名ギタリスト・長岡亮介がギターを封印した初の映画音楽。|『スパイの妻』

BRUTUSCOPE

No. 926(2020.10.15発行)
恋の、答え。
長岡亮介

 自身のバンドであるペトロールズで、あるいは星野源らのサポートとして、また東京事変では浮雲の名義で活躍するギタリストの長岡亮介が、初めて映画音楽を手がけた。黒沢清が監督するサスペンス劇『スパイの妻』のサウンドトラックだ。だがー。

「当初の打ち合わせで監督に言われたんですよ。“今回の作品では時代考証的にギターは必要ないかもしれません”って。え、そうなんだと思ってびっくりしましたよね(笑)」

 映画の舞台となるのは1940年代前半の神戸。そのため当時演奏されていた音楽に適応させる形で、さまざまな検討を行った結果、小編成のオーケストラスタイルの音楽を彼は選択した。時代考証の観点からいえば、もちろん電気楽器はいっさいなし。

「そういった曲を作るのは初めてでした。でも付け焼き刃で普段と違うことをしても気持ち悪いので、感覚としてはいつも通りで、単にアウトプットがピアノやハープや、弦楽器や管楽器になるイメージ。楽しかったですよ。ノウハウはなかったけど、イメージだけははっきりと浮かんで、自分でも意外でした」

 戦時下の国家機密をめぐり、ある夫婦が時代の大きなうねりに巻き込まれていく、そのストーリーを前提に彼は曲作りを進めた。脚本を読み、撮影された映像を見ながら。

 シーンの雰囲気や気分を高めるために依頼された音楽も多く、それで鍵盤を強く打ち鳴らしたり、弦の高音部を引っ掻くようにして弾いたりする、不協和で緊張感のある小曲がいくつも生まれた。

「映画の根底にある不安感や、闇と背中合わせになった当時の世相を、まず踏まえようと」

 かと思えば、ハープの響きにストリングスの旋律が折り重なり、やがて鍵盤やクラリネットを加えて壮大さを増すメインテーマは優美でロマンティックだ。

「どうしようもない悲しみや、やるせなさみたいな感情から、映画で描かれる愛の美しさにフォーカスしていって、そこから希望に繋がっていくイメージですよね。今回サントラを初めて手がけてみて、すごく新鮮だったし、この映画のダークな世界観が自分とは相性がよかったような気がします。実は根が暗いんですよ、僕も(笑)」

 屈指のギタープレーヤーとして名高い彼が、ギターを封印して臨んだこの『スパイの妻』の映画音楽からは、彼の意外な一面を知ることができる。

「映画の素晴らしさと、プラスしてその部分も伝わるといいかもしれないですね(笑)」

©2020 NHK, NEP, Incline, C&I

『スパイの妻』

ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を獲得した、太平洋戦争前夜に生きる夫婦の愛や不安を描いたサスペンス。恐ろしい国家機密を知った優作は、事実を暴くために画策するが、夫を愛する聡子が思わぬ行動に出て……。監督:黒沢清/出演:蒼井優、高橋一生/10月16日、新宿ピカデリーほかで全国公開。

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ながおか・りょうすけ

1978年千葉県生まれ。ペトロールズではリードボーカルとギターを担当し、浮雲の名義では東京事変にギタリストとして参加する。また自身のバンド活動に加え、星野源をはじめとする多数のアーティストのサポートを行い、楽曲提供やプロデュースも行うなど活動は幅広い。

photo/
Masanori Kaneshita
text/
Yusuke Monma

本記事は雑誌BRUTUS926号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は926号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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恋の、答え。(2020.10.15発行)

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