エンターテインメント

中野量太 × 沖田修一|抜群のユーモアセンスで、希望の物語を紡ぐ2人の監督が初対面。|【10月2日公開】『浅田家!』

BRUTUSCOPE

No. 925(2020.10.01発行)
いつでも! おいしい酒場。
中野量太(左) 沖田修一(右)

愛らしく魅力的なキャラクターを生み出す秘訣とは?

消防士やヒーローなど、なりきりコスプレ家族写真で木村伊兵衛写真賞を受賞した写真家・浅田政志。浅田さんの実話を基に中野量太監督が最新作『浅田家!』を撮った。中野監督のラブコールにより、沖田修一監督との貴重な対談が実現した。

中野量太
ストーリーのためにキャラクターが踊らされてしまうような映画が多いなかで、沖田さんは、登場人物を愛おしく丁寧に撮られています。人間の愛らしさやキュンとするところを描いているのが素晴らしくて、僕が日本で一番好きな映画監督なんです。
沖田修一
わわ、ありがとうございます。恐縮です……。やっぱり、人ってカッコつけてない部分に人柄が表れるし、愛らしく見えたりするのかなと思います。観る人が自分たちのようだと感じられるよう、嘘くさくなく描けたらいいなと思いながら、いつも作っていますね。
中野
笑いに関しても、面白いことをするのが笑えることではなく、一生懸命やっている様子がおかしかったり、愛おしく感じられる。「笑かそう」としないところもいいなと思います。ときどき意図を感じることもありますが(笑)。
沖田
そういうときもありますね(笑)。
中野
僕は、「その人らしさ」や「そういうこと、しそう!」というのを目にしたときに、人はキュンとすると思っているので、そこを懸命に撮ろうとしますね。
沖田
俳優さんも、そういう細部のリアリティを作り上げるのが好きですよね。
中野
沖田さんは脚本も監督もされますが、どちらか一つと言われたら、どっちを選びます?
沖田
脚本の方が向いているとは思うんですが、一人の作業はすごく辛いので監督を選ぶと思います(笑)。
中野
僕はどっちも辛い(笑)。ただ、どちらかなら、脚本を選ぶかもしれません。監督の楽しさもありますが、関係者が大勢いて、自分の思いを伝えるというのは本当に大変だなあと痛感しています。でも、沖田さんの現場はすごく楽しそう。新作『おらおらでひとりいぐも』を観てもそう思いました。寂しさを表現する3人にはおったまげましたけど(笑)。
沖田
原作は主人公が自問する構成なのですが、映画では擬人化して俳優に演じてもらいました。自由にやっていい役だったんで、男子が集まるとふざけた雰囲気になりますよね(笑)。僕は、高校生のときに友達とビデオカメラで遊んでいたのが楽しくて、その流れの延長で映画を撮るようになったので、仕事モードに切り替えられなかったんです。俳優さんにも撮影は楽しいものと思ってほしいので、現場では楽しんでいるふりをすることも(笑)。「ウソ笑いでしょ!」と見抜かれたりしています。
中野
ふりは大事ですよね(笑)。結局は、どうやって俳優さんのいい芝居を引き出すかじゃないですか。毎回模索しています。『浅田家!』では、十数枚のなりきりコスプレ家族写真を再現する撮影を、一番最初にやらせてもらいました。
沖田
あれは再現度が高くてびっくりしました。あのコスプレだったら、俳優さんたちは否が応でも仲良くなりますね。
中野
みなさんプロなので、初対面でもすぐ家族の芝居はできるのだけど、事前にそういう時間を作ると、俳優さんもやりやすいだろうし、特別な空気感とか、なにかしら画には映ると思うんですよね。
沖田
僕も自主映画時代に家族を駆り出していた経験があるので、浅田さんの家族の感じはわかるなあと思いながら楽しく観ていました。震災の写真洗浄のボランティアも、ユニークな主人公がやるところに気持ちが入りますね。
中野
クリエイターとして3・11を題材になにかしら作らなければとずっと思っていたんですが、根本は楽しい映画を撮りたいタイプなので、どう撮っていいかわからなかったんです。でも今回、浅田さんと家族を軸にすればできると思えた。僕は家族をテーマにした映画をよく撮りますけど、「家族は最高だ!」と言うつもりはないんです。家族で苦しんでいる人もいますし、いろんな形があるのが家族。でも、「家族って、まあ、いいよね」くらいは言いたい(笑)。
沖田
わかります。「最高!」なんて、嘘くさいですもんね。どこかに希望は残したいとは思いますけど。
中野
ネガティブな出来事の中にどれだけポジティブな部分を見出すか……。
沖田
そうですね。切なげなニュースを見て「これ、コメディにできるんじゃないか」と考えたりします。どんな状況でも絶対にお腹はすくはずだし(笑)。
中野
まさに(笑)。どちら側から見て、どこに光を当てるかですよね。それによって、愛おしくなったり、せつなくなったり。「人って面白いな」というふうに感じられるんでしょうね。

『浅田家!』

原案:浅田政志『浅田家』『アルバムのチカラ』(共に赤々舎)/監督・脚本:中野量太/出演:二宮和也、妻夫木聡/なりたかった職業に一家でコスプレする、ユニークな家族写真で、政志は賞を受賞。写真家として進み始めたところに3.11が。混乱のなか政志は、写真洗浄のボランティアに出会う。10月2日、全国東宝系で公開。

エンターテインメントカテゴリの記事をもっと読む

なかの・りょうた

1973年生まれ。京都府育ち。2012年『チチを撮りに』がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて監督賞を受賞した。各国の映画祭で、14の賞を受賞。16年『湯を沸かすほどの熱い愛』で商業映画デビュー、賞を総なめに。ほか『長いお別れ』(19年)など。

おきた・しゅういち

1977年埼玉県生まれ。映画監督、脚本家2009年『南極料理人』で商業映画デビュー。主な作品に『モリのいる場所』(18年)など。全作品、数々の賞を受賞。若竹千佐子の芥川賞受賞作を映画化した『おらおらでひとりいぐも』は11月6日、全国公開。

photo/
Ayumi Yamamoto
text/
Tomoko Kurose

本記事は雑誌BRUTUS925号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は925号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.925
いつでも! おいしい酒場。(2020.10.01発行)

関連記事