ファッション

所有することが、もう幸福感じゃないんです。丨小形道正●京都服飾文化研究財団 アソシエイト・キュレーター

No. 924(2020.09.15発行)
必要な服だけを。

「最近の出来事でいうと、マスクがファッションアイテム化しているように感じます。感染を予防するという本来の目的だけでなく、他者の視線を意識し、周りから白い目で見られないように公の場では欠かせないものになっています。そのことからもわかるように、常に人は“見る、見られる”という関係性から逃れられないわけです。“私はファッションに無頓着だから”という人も、他者の目に触れた瞬間から、ファッションの渦の中に引き戻されてしまう。それは、スマホやインターネットが普及してモニター越しで対面する機会が増えた今も変わりません。むしろ、相手に伝わる情報が一部遮断されている分、“見る、見られる”という意識が高まっているという見方もできます。そういった生活の変化によって、一つのファッションの時代がいよいよ終焉を迎えようとしています。InstagramやZoom やVR空間の開発といったコミュニケーションツールの拡大とともに、自宅にいながら、仕事、友人との食事、デートをこなすバーチャル化した日常がやってくれば、状況や人間関係に応じて一日のうちに何度も着こなしを変えることが当たり前になっていくかもしれません。そうなると、所有することが、もう幸福感じゃないんです。たくさんの服を求めることに人の欲求がシフトし、自分のクローゼットで築いてきたファッション来歴がレンタルやシェアリングに移行する可能性は大いにあり得ます。日本人の我々にとっては、着物がわかりやすい例でしょう。もともと日常服だったものが、生活様式の変化とともに徐々に着用機会を失い、今ではレンタルが当たり前になっている。ただ、それによって、“祖母からのお下がり”といった思い出を所有する継承文化も顕著になっています。多くのものはレンタルしながら、特別な価値のあるものだけを所有するのか、今後は、人と服のより良い関係を描いていくことが大事になってきます。既にファッション界が取り組んでいる、環境に配慮したサスティナブルの観点や、ジェンダーの問題を克服する動きにも言えることです。今、我々はファッションの大きな変革期に立っている。それを自覚することで、服の捉え方が変わっていくでしょう」

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photo / Masaru Tatsuki text / Keiichiro Miyata

本記事は雑誌BRUTUS924号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は924号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.924
必要な服だけを。(2020.09.15発行)

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