ファッション

きっと“アダプティブ”って普遍的なものなんですよ。丨徳永啓太●ファッションライター

 

No. 924(2020.09.15発行)
必要な服だけを。

「ファッションにとって大きな変化は、2018年にヴァージル・アブローがルイ・ヴィトンのメンズアーティスティックディレクターに就任したこと。各種メディアのトップを飾り、彼がメゾンブランドを牽引する日は来ると誰も予想していなかったでしょう。彼が手がけるコレクションは、メゾンブランドでは珍しく、ヒップホップアーティストや、黒人のインフルエンサーを数多く起用し、何よりも多様性を打ち出していたところが突出している。やはりファッションって、受け皿が広いなと感じる大きな出来事でした。そうやって、マイノリティと言われる人たちにスポットが当たるなか、“アダプティブ”という言葉が注目を浴び始めたのは、当事者である私にとってはとても嬉しいこと。ただ、服作りって、そもそも一人一人にアダプト(適合)させる“仕立て”が起源だったはずですよね。大量生産する既製服が主流になったことで、最大公約数的に規格化されたS、M、Lのようなサイズの棲み分けが一般的になってきたから、特別なフレーズに聞こえているだけだと思うんです。ファッション本来の姿からすると、きっと“アダプティブ”って普遍的なものなんですよ。いちトレンドとしてではなく、服の本質として捉えてほしいと思う。〈トミー ヒルフィガー〉を筆頭に、“アダプティブファッション”を意識した取り組みが少しずつ進んでいますが、私個人として思うのは、機能ばかりに特化した服はあまり着たいと思えない。車椅子生活でも着脱しやすいようにウエストにゴムを通すなどのお直しは、健常者にとっての裾上げ程度にしか思っていないんです。それを、きちんと当事者である私たちが発信していくことも大事なことだと思っています。当事者側がファッションに対して壁を作っては、作り手も消費する側も満足しないものになってしまい、元も子もないので……。今は“アダプティブファッション”が限られた人たちの服として捉えられていますが、この先、障害者も健常者も関係ない、双方がカッコ良いと思うものができたら理想的ですよね。人と人の間にあった境界や壁を打ち破ることが、これから求められるファッションの新しい価値観なのではないでしょうか」

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とくなが・けいた

1987年生まれ。脳性麻痺により車椅子で生活。企業に勤める傍ら国内外のコレクションレポートなどを執筆し、2017年に独立。 年、本国のVOGUEにも取り上げられ、多様性とファッションを軸に当事者目線で取材を行う。

photo / Masaru Tatsuki text / Keiichiro Miyata

本記事は雑誌BRUTUS924号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は924号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.924
必要な服だけを。(2020.09.15発行)

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