旅と地域

【いつか行きたい、ニッポンの祭り】ダンスミュージックを求め、世界中を旅する音楽ライター・大石始が解説する。

「新・ニッポン観光。」BRUTUS.jp特別記事

No. 923(2020.09.01発行)
新・ニッポン観光

今年の夏は静かだった。相次ぐイベントの休止、それに伴い全国の「盆踊り/祭り」が行われなかったことも、そう感じてしまう要因の一つである。街を歩けば聞こえて来る、祭りばやし、伝統的な衣装を身に纏った踊り子たち、失われた情景に想いを馳せ、来年こそはあの場所で身体を揺らしたい━━。

今回のBRUTUS.jpオリジナル記事は日本の「盆踊り/祭り」にフォーカスをあてるため、世界各国のローカルなダンスミュージックを研究し、近年では日本の伝統文化を調査する音楽ライターの大石始 氏に、その魅力を語ってもらった。

現場でしか体験できないグルーヴ

ぼくはここ10年ほど、音楽ライターとして活動する一方で、日本各地の盆踊りや祭りを巡っている。各地を訪れるたびに「日本列島にはこれほどまでに豊かな音楽文化が息づいていたのか」と驚かされてばかりいる。会場の熱狂をコントロールする音頭取り。タイトなグルーヴを叩き出す太鼓奏者。そこでは踊り手たちが踏み鳴らすステップでさえもグルーヴの構成要素となる。

だが、盆踊りや祭りに渦巻く音楽的なおもしろさは、案外音楽リスナーのあいだで知られていないような気もする。そこで、ここではぼくが実際に訪れたものをいくつかピックアップし、現地にいかないと味わえない音楽的魅力について紹介したい。この夏、コロナの感染拡大の影響を受けてほとんどの盆踊りや祭りが中止となったが、来年以降のの参考になれば幸いだ。

徳島市阿波おどり(徳島県徳島市)

誰もが知るであろう徳島の阿波おどりだが、祭り当日の狂乱状態には衝撃を受けた。太鼓の低音が鳴り響き、街全体が揺さぶられるような感覚は、南米やカリブのカーニバルで感じたものとそっくり。カンカンという鉦の高音も強い印象を残す。阿波踊りは現在日本各地で開催されているが、真夏の徳島で体感する阿波おどりは特別。ぼくは徳島でこのサウンドに身体を揺らした瞬間、これまでジャマイカやブラジルで探し求めた音楽と同じ体験が日本でもできるのか、と打ちのめされました。音楽ライターとしての人生が変わった瞬間でした。


郡上おどり(岐阜県郡上市八幡町)

郡上八幡の古風な町並みのなかで行われる、日本三大盆踊りのひとつ。毎年7月中旬から9月上旬にかけてのべ30日以上開催されるが、最大の盛り上がりを見せるのがお盆に行われる「徹夜踊り」。連日朝4時過ぎまで踊り続けられるという踊り手たちのパラダイスだ。ここではゲタで地面を踏み鳴らす音もリズムのアクセントとなる。なお、近隣で行われる白鳥おどりの徹夜踊りもかなり強烈。郡上おどりがBPM120の歌ものハウスだとしたら、白鳥おどりはBPM130のミニマムテクノのよう。


西馬音内盆踊り(秋田県雄勝郡羽後町西馬音)

まるでイスラムのブルカのように、目だけを出した彦三頭巾がミステリアスなムードを醸し出す秋田の盆踊り。ゆったりとしたリズムは、音楽的にいえばルーツ・レゲエかダブのよう。踊り子がステップを踏むたび、足元に撒かれた砂利がこすれてジャリッという音が鳴るが、その音がまた西馬音内盆踊りならではの趣きを生み出す。囃子方の歌唱や演奏も聞き応え十分、ラップを思わせる地口という歌唱もリズミカルで楽しい。


コロナ禍に入って多くの盆踊りや祭りが中止になると同時に、オンライン開催など新たな可能性も探られている。モニター越しに祭りを見ていると、なぜ私たちは踊るのか、なぜ祭りを必要としているのか、そうした原点を考え直す稀な機会ともなっている。だが、盆踊りや祭りはやっぱり現場で体感してこそ。身体全体を揺さぶるような祭りのリズムを味わう日が待ち遠しくて仕方ない。次回は祭りの現場でお会いしましょう。

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大石始

おおいし・はじめ/と祭りをこよなく愛するライター。これまでに30か国以上もをして、ローカルなダンスミュージック を調査してきた。著書に「GLOCAL BEATS」「ニッポンのマツリズム」「奥東京人に会いに行く」など。

photo/
大石慶子
text/
大石始

本記事は雑誌BRUTUS923号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は923号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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新・ニッポン観光(2020.09.01発行)

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