エンターテインメント

2012年、藝祭のステージにて。

滝本誠のCAFÉ NOIR

No. 923(2020.09.01発行)
新・ニッポン観光

 WONK(最新アルバム『EYES』)のラジオ・アーカイヴをチェックしていて、リーダー荒田洸氏の誕生日の放送時に流れた一枚のスナップ写真に目を凝らした。未来に編まれる〈日本ポピュラー音楽史〉の一つの時代のビギニングの瞬間をとらえていたからだ。

 昔からどこの大学よりも1か月早い9月に開かれ、たいてい雨に祟られていた『藝祭』(東京藝術大学の大学祭の呼称)の2012年の屋外ステージ写真がそれだ。簡易ステージ上にいるのが、キーボードの江﨑文武、ドラムの石若駿、ギターを手に突っ立っているのは超ロング・ヘアーの常田大希といういずれも20歳前後。常田は器楽科チェロ専攻をあっというまに退学済みで、ひとりで立ち上げた〈ミセス・ヴィンチ〉で、エレキ・ギターによる音響実験をはじめていたが、石若の誘いで藝祭ステージに参加した模様。現WONKメンバーの江﨑文武は、このとき音楽環境創造科在籍である。彼はピアノ・パート担当としてKing Gnu「白日」MVにも出演、この曲における貢献度では、King Gnu第五のメンバーといっていい。

 さらに、この藝祭で偶然に同郷の幼馴染み、井口理が声楽科に在籍と知り、やがて彼をヴォーカルに、King Gnuの前身=Srv.Vinciを常田は結成する。井口理は、曲ごとに当てる声を変幻させKing Gnuに大衆性を与えた。その井口が偶然にも登場して語っていたのが『最後の秘境、東京藝大』というベストセラーであった。ちなみにCDTVで話題を呼んだ『ティーンエイジャー・フォーエヴァー』の背広姿からタンクトップのチェンジは、まさに藝大秘境人の面目躍如といったところだ。そうしたバカの役割は、本来は美術学部生が担ってきたが、そのおいしい伝統は音楽学部卒の井口が受け継いだ。常田は村上隆の『芸術起業論』などを参照しつつ、自分のやりたい音楽の浸透にむけて戦略を練ったらしい。King Gnu、millennium parade、MVほかをてがけるPERIMETRON……。

 さて、現在の藝大美術学部のありようはどうなっているか? その空気は、芸術学科卒の作家一色さゆりの『ピカソになれない私たち』(幻冬舎)がうまく伝える。

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たきもと・まこと

東京藝術大学卒業後、編集者に。著書に『映画の乳首、絵画の腓 AC 2017』(幻戯書房)。

本記事は雑誌BRUTUS923号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は923号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

No.923
新・ニッポン観光(2020.09.01発行)

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